モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

8.暗闇の対面



 ガルーフは背の高いエルフ女に導かれて天幕をくぐった。背後には小さなエルフがついた。

 オークの旗手はふと興味を起こして、まくられた天幕に手を伸ばした。優しい手触りがオークの大きな手を迎えた。故郷の新雪から、肌を痛める冷たさをなくしたらこうなるだろうか、とオークに感じさせた。

「ひ!?」ガルーフはそこで突如背中に軽い衝撃を与えられた。振り向けば、自身の《サーベル》が鞘ごと当てられたのだと分かった。

 小さなエルフの《ロリチャン》は口に満面の笑みを湛えながら首を左右に振った。両目は笑っていない。

「触るな、って言いたいのか」小さな女は答えない。(背中から心の臓のど真ん中を叩いてきやがった)

「あんた、それをよこしなさい」長身の女が割って入ってきた。「なんでさ」オークの《サーベル》を巡って二人が押し問答を始めた。

 そこへもう一人の女が入ってくる。「う」オークの若者はぞっとした。細く引き締まって、へそをむき出しにしたエルフのお腹だ。

 ガルーフの眼はしばらく新手のエルフの腹に囚われていたが、足音が余分に多い、と感じた。背後にもう一人いるのだが、薄衣のお腹のエルフはその人物を隠そうとしているのか、どんどんこちらに歩を進めてきた。ガルーフのオークの後れ毛はそばだち始めた。

 ところが目の前の女の目線は少し遠くを指していた。ガルーフは振り向き、二人のエルフ女が自分の刀を巡って押し合いへし合いしていたのを理解した。そして目前の肌を露わにしたエルフは「あ、あのう」とか「あのね……」と口を挟もうとしては失敗する。後ろでは二人の女の腕力と意地がオークの《サーベル》へきりきりと込められてゆく。(あぶねえな、こいつら!)とガルーフは思う。

 奥から、「ロリちゃん」と声がかかった。もはや天幕の内も外もとっぷりと暗い。

 後ろでは物音。声を聞かされた小さなエルフがすぐ手を離したらしい。長身のエルフは憮然と鼻を鳴らしたようだった。「ふん!」

(一番あとから入ってきたこいつが一番偉いか)ガルーフが判断を下していると、目の前の女はようやく声をかけることに成功した、ガルーフへ。「どうぞ、かけて」持ち出してきた木の椅子が木の床にこすれる音がした。

「ぼくがエサランバルの総指揮をやらせてもらっているエルサイス。用件をうけたまわろう。座って」ガルーフは立ち続けた。

「みんなも名乗ってくれ」

「わたしは弓隊長のナーダよ。座ってね」

(弓隊長。こいつは護衛役か)ガルーフが黙って考え続ける。そのうち周囲にまで沈黙が伝染したみたいになった。オークは自分から沈黙を破る。

「自己紹介して、よろしくよろしくと言いたいところだが、暗すぎるぜ。声のするほうへ向かって矢を射込むつもりか?」

「ああ! 申し訳ない、確かに暗いね!」顔が闇に覆われたエルフの指揮官は座ったままなにか手振りをしたようだ。すぐに部屋のランタンが灯された。エルフの部屋をまんべんなく照らす、真っ直ぐで柔らかい光。

「私は参謀のサーラよ。エルサイスを扶けてる」長身のエルフは火口箱をしまいながら言う。(面倒なことを言ってきそうなつらしてやがる)

「さあ、ロリちゃん」

 小さなエルフは指揮官にうながされても口を開こうとしなかったが、なにか思いついたらしい。

「ふ。豚は夜目が利くと思っていたけど。ふ、ふ、ふ」

(エルフはこれほど暗くても平気なのか……)ガルーフは舌を巻いた。

「余計なことを言うんじゃないわよ!」サーラは《ロリチャン》をたしなめた。