モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

11.流儀と提案と決定



「弓を引く力がありそう。きっと、百射皆中なのだわ」細いエルフのナーダの前にあぐらをかいているのは、瘤を並べたようなガルーフの太い腕。

「ど……どちらかといえば弓より槍さ。サーペントを仕留めたことだってあるぞ」ガルーフは低い声で応えた。

「そ、そうね。だから、旗持ちなのよね。オークでもエルフでも生きて食事をするためには戦って勝たなくてはならないのだけれど、やりすぎてはいけないということ、狩りを生業とするのなら分かるでしょう?」

「俺はどちらかといえばモンスター専門だったさ……。悪い奴を駆除してみんなに、喜ばれるんだ。お前たちみたいに、木の上にお高くとまる奴らもいなくなって欲しいもんだ」ガルーフはナーダの顔を眺めながら言う。

「こいつ! 自分たちだけかわいそぶりやがって!」背後からロリエーンがすかさずわめいて、ガルーフは背筋に少し寒いものを感じた。

「そう……。わたしたちはどんな者であっても生き長らえてほしいと思ってるの」

「さ、さっきからお前たちは綺麗事ばかりぬかしやがる」

「それにはわたしたちの命も含まれているわ。狩人は獲物があって狩人と呼ばれるの、分かるでしょう? このいくさで森を焼きエルフを仕留めてしまえば、あなたの赤ちゃんに持ち帰るパンや野菜も消えてしまうわ」

「うるさいな。狩りに忙しくて結婚するのを忘れていたら兵隊に取られてしまったんだ。極端な例えでかまをかけるなよ。ほどほどに狩るものだろ。獲物に敬意を払いながらな」

「そうよね……。賢い狩人はそう考えるわ。それが自分と獲物の命を尊ぶということよ。でも、あなたはさっき法を無視することを言って死ぬのは当たり前だと言ったじゃない。あなたの心はいくさ場で変わりはじめてる」

 ガルーフは勢いをつけて立ち上がった。「こんな俺にどうしろと言うんだ!! エルフには屁理屈しかねえ! これなら、めしをやるから俺たちのために働けと言ってきたヒューマンどものほうがましだろう!」

「で、では聞いて」ナーダは両手を広げてガルーフに近寄ろうとした。「あなたたちではなく、わたしたちがしてあげると言ったらど、どうかしら。エ、エルフがオークを助けてあげるなんて、口はばったいことは言えないけど」ナーダの口は一度止まった。

「オークが自らを助けたらいいと、思う。エサランバルの土地をすこし分けると言ったら、どう」ナーダは部屋の三人に向かって言ったのだった。「もちろん、兵隊は引き揚げてよ……」

「ナーダ!!」弓隊長の柔らかい両肩が掴まれた。「あなたの考えは危険すぎる! オークなんかに共感して!!」オークの使者との間に割って入ったサーラのきめ細やかな両手はナーダの肩を揺すぶった。

「薄々、あほじゃないかと思ってたけど、あほだ!! シ、シグちゃんが殺されようって時にまでお人好しだよ!」

「サ、サーラ。ロリエーン……。気に障るでしょうけど……」ナーダは二人の手をほどく。そして自分の手のひらでガルーフを指し示す。

「この子は怒ってるように見えて、話をちゃんと聞いてくれる子よ。オークの問題点を根元から取り除けば……」

「お、お前たち、一体いくつなんだよ」ガルーフは立ちすくんだまま。

 エルサイスは押し黙ったまま、その紅顔を重く沈めていた。

「指揮官! この使者は危険よ、オークの善良性を装って我々の同情を引き出してる!」エルフの大将の様子を見て取ったサーラは大声を出した。

「俺は、なにも考えちゃいねえ!!」オークの使者はエルフの参謀に反駁した。「不自然な会話ばかりしやがって、てめえらこそ、さっきから企んでいるな! な、長居をしすぎたな」ガルーフは言い放って、出口へ踵を返した。

「あら、それは結構」サーラの送りの言葉にかちんときたので、ガルーフは部屋へ向き直った。つん、と視線がぶつかった。

「あっ!!」ガルーフは思わずサーラを指さした。「お、思い出したぞ、さっきお前の言ったこと! お前は、さっきやって来たエルフの使者だったんだ」はーっ、とサーラは息を吐き出した。

「今頃気がついて悪かったな。エルフの顔なんざ見分けがつくか」今度はロリエーンがかたわらでその小さなかぶりを振った。

 ガルーフは顔を引き締めて、「てめえはさっきおかしなことを言ってくれたな。エルフは生きるのに飽きているから命を捨てても惜しくない、みたいな意味だった」サーラの美しい睫毛の並びがかすかに歪んだ。

「やっぱりてめえらはモンスターだ、魔物だ。こんなぬくいところに収まっているからそんなのんきな考えが起きるのさ。あばよ。ここにはもう一瞬もいたくない」ガルーフは巨大な白旗を暗い部屋から掴み取って手中に収めた。まだ周囲を見渡す。すると、小間使い姿のロリエーンが黙ってオークの《サーベル》を突き出してくる。ガルーフは戸惑ったが受け取る。

「待ってくれ。意志をここで決定する」ガルーフとロリエーンは同時にエルサイスを見た。

「なんだよ! まだ何かあるのか!?」