「エサランバルで参謀を務めるサーラです。全権を委任されています。この席では」サーラは旗持ちらしいオークの後から幕内へ入った。 中には、豪奢な鎧をまとった巨魁のオークが一人。彼はわざわざ机に音を立ててよりかかった。そして彼よりおそらく若いオークが二人部屋に立つ。それらに、旗持ちのオークが加わる。旗持ちはなにやら所在なげに幕内をうろついていたが、奥に陣取ることに決めたようだ。 (四人……いえ五人)オークの布の部屋のすみに座っていて、小さく見えたのは老人のオークらしい。と見るや、老オークは立ち上がる。 サーラが不意を打たれたまま立っていると、彼は狭い部屋の中でわざわざ大回りをしてみせて、サーラの隣を慎重に静かに通り抜けていった。(相手は四人に戻った)長い裾をつまんで歩いていた。その聖装はサーラも見覚えがあったので、恐らく神官だろう。 巨魁のオークは《神官》の退出を見届けると、サーラに椅子をすすめた。彼は座せず、机に大きな腰を乗せたまま。サーラは座る。エルフの衣装の隙間に冷えきった感触を受けた。 「この度は、人質の返還にあたりまして、双方が刀を収め」巨大な鎧武者はなめらかに抜刀した。天につきたつ《グレートソード》。 (さすがオーク、怪力)エルフの持つ《ロングソード》と火花を散らすことになれば、刃こぼれを起こして敗北する側は決定している。(刀を収めて停戦、と言わせないのね) 「異国の地にて」相手はサーラの一瞬の沈黙に乗じて喋りはじめた。エルフが名乗ろうがオークは誰ひとり名乗っていない。「我らは左右もわからず屯田もままならぬ。野良モンスターがいつ闖入するかわからぬが、是非狩りとって肉体を喰らい、残った魂をバランに捧げたてまつろうと思う」オークなりの歌だろうか。ついで、二人のオークが笑った。ひとりだけ笑わなかったのは気づいた。サーラも返歌しようと思った。 「かような草木深き辺境の地へ未知なるいくさを求め、不倶戴天であったはずの仇敵種族と手を結びて挙げ句の果て、増えすぎた勇猛志士を抱えて食うに困る。確かに、まことの危険を求め死にゆく猪の子らでございますこと」 巨魁は、今度は轟音を立てて机から飛び下りた。「よし、早速斬ってやる。化け物っ!!」 オークは大刀を両手でふりかぶって上段の構え。エルフも立ち、片手剣を下段へもってゆく。 がだんっ、と別の音が鳴り響いて、二人のオークが格好を崩しひきつった身体をさらしている。「おいおい、おい」とは旗持ちの言葉だ。 (敵は四人……それと、周辺)サーラの長い耳は察する。 「総攻撃をかけますか? こちらもかけます。奇襲されて人質を増やしてさしあげることだけは真っ平。荒事好みのあなた方に合わせた挨拶だったけれど。人質と使者を無下にすればあなた方はもう話し合う余地もない化け物、モンスターということです」 「私が帰らなければ、同胞の正確な矢がどしゃ降りのようにここを貫きますよ。エルフをなめないで!!」気合い一閃、正面のオークの隙をつくって、エルフは突進。 「惜しい。そこが平たくなければ」サーラはオークの、まさに鼻先に、突き立てた刃を持っていくことに成功していた。 「黙れ。ざまをみろ」巨大な敵に飛び込めば囚われるのは当然であった。「つまらんはったりより、悲鳴を聞いてやる」敵の力がサーラに伝わってきた。 「この耳は聞きたくもないつまらぬことまで聞こえ、不便でなりません」囚われたサーラは自分の耳を差すこともできず、オークの肉の熱さとせまりくる鎧の金属の痛み、きしむ自分の身体の音に辟易していた。 サーラは脚を器用に操って、ぽんと敵首魁の膝の間接を逆に蹴ってやると、軽々と後ろへ飛びすさった。 ようやく自分の耳を指差すことができて、 「エルフの強さとオークのふがいなさ卑怯さを嘆く声が聞こえます! 外で怯えて立ちすくむ勇士たちだけどね!!」 |
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