使者はエルフの門をくぐった。 「待ってた。でっかい白旗なんか持ってきちゃって。オークは降参か」中央に一人のエルフ女が待ち受けていた。 「馬鹿言うんじゃねえ」 「ちっ、たった一人で来てさぁ!」 「なに言ってやがる。また大軍の大喧嘩がしたいのか」 「不細工な顔を並べてこいなんて誰も言ってない!」 「じゃあ、誰を……。ああ、わかった、よくわかった。そのことは中でゆっくり話すから、な。連れてってくれ」と歯切れの悪い答えを与えるとエルフの目つきは夕暮れのなかに鋭くなる。 ともかく、門を開けさせたガルーフは白旗を降ろす。 「だめ。ちゃんと掲げててよ。隙を見て斬りかかろうとすればこの矢が飛んじゃうから」エサランバルの闇はどんどん濃くなっていく。目の前のエルフは弓を構えているらしい。 「風をつがえて弓矢ごっこか。お前、子供だろう?」 「ふん。いいから付いてきなよ」ガルーフは小さなエルフの背中を見ながら夕闇の中を歩いた。エルフの袖やスカートはやたらふわふわしてよく揺れた。 「派手な服だなあ。お前の結婚式か? いくさの最中によくやる。エルフの歳はよくわからん」ガルーフはぶつぶつと言葉を並べた。 「うるさい! かわいいかわいい小間使いさんだ! サーラが命令違反の罰に、穏やかにオークに応対してみせてと言うんだから! いいから、ほら」エルフはくるっと回った。また袖がふわりとした。 「刀、よこして。断るならこれ以上うちの指揮官ちゃんに近づけさせない。永遠にだよ」 「ほら」ガルーフは白旗から片手を離すと、器用に腰のサーベルを解いた。 「重くないの?」「もうすっかり慣れたぜ」 「重たっ」エルフは両手でサーベルを受け取るとよろける。 「こうしてロリちゃんは武器を手に入れ、オークは敵陣のなかで素手になったわけだけど、どうかな?」エルフはオークのサーベルを鞘から少し引き出して、夕闇にどれくらい輝くものかと小さなあごを上げた。そろそろ天に昇ろうとする月光を探す。 「返してほしい?」 「別に」 「そっか。その分厚いのどの奥まで、一気に返してやろうと思ったんだけど」小さなエルフはサーベルを収め自分の腰に結わえて少し歩いたが、舌打ちして背中にしょいはじめた。 「俺を殺してもどうにもならないぞ。ただの田舎者で」ガルーフはまた片手を離し親指で自らの背後をさした。エルフは振り返らない。 「向こうにもろくな知り合いがいないから、ろくでもないお使いをよくやらされるんだ」 「よし、着いた。おとなしくしてなよ」 エルフの天幕が待ちかねていたように開けられて、また一人のエルフ女が顔を出した。 (このロリチャン……とかよりのっぽだな)ガルーフは思った。 「ご苦労さまロリエーン。脅かしたり暴れたりしなかったでしょうね」 「誰もそんなことしねえよ」「うるさい。ロリちゃんはいつでもおとなしいんだから」ガルーフとロリエーンの声が重なった。 |
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