(洞窟子熊と同じだ!)ガルーフは衝撃と恐怖を味わう。自分の身体が宙を飛ぶ。 ガルーフはエルフの会議室の床に強く打ちつけられた。両眼は闇の部屋の中へ火花を撒き散らしたあと天井へ向けさせられた。激しく揺れ動くランタンと、部屋中に投げかけた光と闇の乱舞をしばらく目の当たりにした。 傍らで、ぱん!と小気味よくも悲しい破壊の音がした。エルフの茶器が机から落下して一息に砕けたらしい。 「こいつ、言うに事かいて! よこして! こいつの刀でとどめを刺してやる! よこせ!!」オークの巨体を押し倒した小さなエルフは吠える。ガルーフの意識は薄れかけていたが、エルフのまなこからオークの顔へ落ちてくる熱いしずくが彼の気を保たせていた。 「やめなさい!! 使者を殺すのはオークの蛮行と同じ!!」サーラの白い両の腕がオークからロリエーンを引き剥がす。 オークのガルーフはほんの少し、床に寝そべって時を過ごした。傍らに散らばるエルフの茶器が音を立てるのを彼はしばらく聞いた。暗闇の中で無残な姿に変わった茶器を片付けているのはナーダのようだ。 あまり時間をかけないように彼は立ち上がった。「……じゃあ帰るぜ。用件は伝えたから、今度はうちの大将に報告しねえと。死ぬのはそれからにさせてくれ」 「待て、待ってくれ。君の話をもっと聞かせてほしい」エルサイスは立ち上がった。 「なんだってんだ!? 柔らかい物腰に釣られてみたら、とって食われるところだったじゃねえか!」オークは後ろ頭に気をやってみた。それはひりひりと応えてくる。 「戦争の法律だってさ、笑わせる。命のやりとりをごまかして、なにがどうなるってんだ」言い終えて、ガルーフはエルフの部屋の出口のほうを向いた。 「エルシーの話にお耳を傾けるくらいしなよ。お役目を永久に果たせなくなるのとどちらが、お望み」出口の暗闇にはロリエーンがもうたたずんでいた。彼女は小間使いの前掛けで顔をひと拭いした。 「いつの間に」小さなエルフは徒手でも睨みつけてくる。ガルーフは後ろ頭をさすった。たんこぶがぴりっと痛む。 「喋ってやるよ」どかっ。ガルーフは床へ直にあぐらをかいた。 ぴくっと反応したロリエーンの方を一度見やって、「こいつも俺を殺すのを望みとしている。死者を生き返らせることができる奴は森の魔女にいないのか?」 「はあ?」サーラが顔をしかめた。 「取り引きしてやろうってんだよ。お前たちにだいぶ討たれた俺のはらからを蘇らせてくれたら、捕虜だろうとなんでも返してみんな一緒に凍土へ帰ってやるさ」サーラの目は静かに険しさを増した。 「ははは、無理だよな。俺もそんなことは構いやしない。戦士が死ぬのは当たり前だものな。運がなくなるかどうかだ。しかし、赤ん坊やその母親が飢えて死ぬのはどうかな。俺はまともなことじゃないと思っていた。だから俺たちはここへ助けに来たんだ。俺はそう思い始めた」 「そういうの、シーフ猛々しいと言うのよ。私も、あんたを叩き殺したくなったわ」「サーラ、いけないよ」エルサイスが低い声を発した。「思っただけよ」 「エルフは優しくて、実力もあって、実にいい土地を持ってる。ウルフレンド大陸全てを救ってもらいたいもんだ……。なあ、さっきから俺が言いたいのは、死人を出して苦労して捕まえた獲物を、なんで俺たちの知らない取り決めで離してやらなきゃならんのかってことだよ!」 「こいつ!」いよいよ飛びかかってきたロリエーンを全身をもって抑え込んだ者がいる。 「あ、あなた、その物腰と膂力、猟師に見えるわ。わたしもよ。エサランバルのエルフのみんなもよ」じたじたともがく小さなエルフの後ろから、ナーダは顔を覗かせる。 |
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