「黙れ田舎っぺ」グルルフは吠えた。 「ドラゴンの飼い主に勝てるはずがないんだよ。詩人のサガだと思っていたのに」ガルーフは叫んだ。 「この馬鹿はどうでもよいですが、ことですな。エルフが凶暴な駒を取り揃えているとおっしゃるのですか。敵の立場になって考えてみるなら、この山道を出たところで一気呵成、決着をつけてくると愚考しますよ。我ら同志が布陣にかかった隙に騎兵を殺到させるでしょう。今襲いかかられていないのはそういうことです」ガーグレンは述べた。 「駒。馬みたいなドラゴンなのか」ガルーフはグルルフやゲーリングの顔を見渡した。 ヒューマンの老将ファンタール卿はひとつ長い息をついてから傍らの腹心エ・ガルカをうながす。副将は喋り始める。「騎馬の突撃には堅い方陣を敷くことです」 「それくらいのこと、オークの兵書にだって載っていますよ」オークの将軍ガーグレンはファンタール卿へ向かって言う。「しかし異なことをおっしゃる。盾を連ねてしまえば巨大なめくじのごとき有様になります。エルフには正確無比な弓矢があるのでしょう? 進まぬ隊列をやすやすと射止めると思いますが」 「前に馬、後ろに弓。なんでもできそうだなぁ」ガルーフは肩をすくめた。掲げているブルグナ王国の旗が巻き添えをくった。彼の鼻息を傍らのオークの神官ゲーリングは黙って聞いた。若き旗持ち、田舎の狩人。 「ケフルが先発します。我々が森を窺えば騎兵で対処しようとするはずです」「ほお! それはありがたい」 「我々は山越えして西回りでエサランバルの南を突きます。ブルグナ軍は後詰めとして北側を固めていただきたく存じます」「ほお! ヒューマンの勇猛なる心に感服いたしましたぞ……。オークのお株を奪うがごときですな」(ケフルへの道の確保はおまかせあれ)とガーグレンは接ごうとしたが、グルルフが遮る。 「お、お待ちください。策が通じたとして、エルフの弓兵はこちらに残るということではありませんか。つまり脅威はほとんど変わらないのでは……」 「黙れ、グルルフ。ヒューマンが堆積した過去を超えて道をお示しになられているのに、義に対してオークが遅れをとってどうする。ブルグナの騎士は森の前で義と勇を示しますぞ、卿」 不意に、ガルーフの旗は静かに揺すぶられた。(のう、意味がわかるか)馬上のゲーリングが内緒話を仕掛けてきた。(我らがエルフの矢を浴びにゆく意味が) (もしかして、相手はエルフだけじゃないと言いたいのか? みんなは)ガルーフとゲーリングの前で対話する者たち。 (意外に頭がよいな。帰り道はこの一本しかないからのう)オークとヒューマンの軍団は一歩一歩エサランバルへ近づいている。(オークの軍はとても良い場所に導かれることじゃろう) (神官にそんな言い方をされるのは恐ろしいな。なぁ、義とか勇とか褒め合っているのは全部うそか?)ガルーフは前方を指差す。 (気取った言葉を使っていると話がはずむからのぅ。成功したらばご立派な騎士のままでいれば良し、失敗してもオークはとても有利な位置にいる。たぶん将軍はそう考えておいでじゃ) 「功はでかそうだ」ガーグレン将軍のまとう外套は分厚い音をさせてさっきから揺れている。将軍の勇壮な身振り手振りは続いた。 |
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