「《ブルガンディ》紙によるとぉ、前王者が出かけてるからだっていうけど、ロリちゃんに言わせれば違うね。王者が休暇を取るはずないじゃない。若いシュラちゃんから逃げたのよ。ああ、お喋りは楽しいけど熱が入っちゃう。今度こそ、おやすみなさい」ロリエーンは頭上の青天に別れを告げて目を閉じたがすぐ開く。 「うそ……神器」思わず首だけ起こして無理な姿勢に耐えながらエルサイス将軍の手元を凝視する。ロリエーンは自らのまなこを凝らすことに夢中であったが、エルフたちの陽気な声もエサランバルの会議場から消えていた。 エルサイスの持ち込んだのは一対の美しい弓と矢であった。「ユリン様の弓」シグルドはあえて言葉に出した。 「ひっぱり出したのはいつ以来だったっけ? やーだ、覚えてない」ロリエーンは上体だけ起こした。「どれくらい価値があるんだろうね。ブルガンディの山の手にお家を建てられるかな」 「ロリちゃん?」 「怒んないのよ。シグちゃんがいつ以来の大いくさだと思って硬くなってるみたいだからさ」いつの間にかロリエーンは草むらの上に正座している。「ブルガンディはいいものが揃ってるけどなんでもお値段が張るのよね。というよりエサランバルが貧乏なのかも。なんて時代だろう。いや、いつまでもお花やお米しか売らないのがおかしいんだ」 「ロリちゃん!」 「ごめんごめん。ロリちゃんどうしてこんな冗談ばかりになっちゃうんだろう。もうなにも言わないよ」両手で大袈裟に口をふさいでへへへと笑う。 「どこのどんな的にも必ず当たるユリン様の神器だよ。使うあてがあるなんてそりゃ気が重いよ」 「そんな力ほんとかな。全然覚えてないんだけども、分けて使うんだから意味はないよ。げん担ぎに箔付けよ」ダムド副将軍がうやうやしく矢を受け取るところだった。 「骨董品を持ち出したからって緊張することないない。どうせ戦う面子も変わんないんだ。今度も生き残るだけでいいのよ」 「よしてよ」ロリエーンが肩を揉みにやって来るのでシグルドは身をよじった。くすぐったい。 |
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