駆けていると話し声が風に乗ってきたのがわかる。ロリエーンは聡く耳を澄ました。 「兄と夫、先にどちらを抱きしめたらかどが立たないか分からないじゃない?」 「あなたって本当に大胆よね」 「遠慮の話なのに。結局兄さんが嫌がるのよ。いくさだからと肩を張らずにごく当たり前に出かけるのが好きなんだわ」 「好きとか嫌がるとか言われるのもご同様でしょう、ああいう感じの人」 「ああ……そうか。エルフには珍しい人よね。妹として長年つきあってるのにまだわからないところだらけ」 「あーあー疲れた」「ロリちゃん」「なんで帰ってくるのよ、あんた」 「叱るにしても『どこへ行ってたのよ』でしょうに!」「いくさを寝過ごすかと心配してたわ」サーラは答えずナーダが言った。 「運動したらすっきりしちゃった」金の髪をかきあげると細かいものが手に触れたので、ロリエーンは大袈裟に頭をかいた。緑の葉や枝がぽろぽろ落ちる。 「ロリちゃんは人気がありすぎてよくない」ピンクの外套をぱたぱた振ったりピンクの服のしわを伸ばしたり、ロリエーンは会議場でひとり舞った。 「お兄ちゃんにもようやく追いついたのに大声で見送ったらさっさと出立しちゃった。ふふ、エサランバルにはほんとうに珍しい武人ちゃんだね」 「それにくらべてこっちはまだ陣立てもせずにお喋りか。エルシーも大好きだけど今回はしゃれにならないんじゃない?」エルフの大将は奥から苦笑してみせた。 「あんたは毎回よく言ってくれるわね。一般兵のお気遣いは無用だから、どうぞ口を閉じていらっしゃいな」エルフの参謀は言う。 「ロリちゃんはしゃれにならないことはわかるもん。もう勝手に出撃しないことをユリンちゃんに誓います」エルフの突撃兵は軽く片手を上げた。 「やっぱり直接オークと手合わせするのは危険よ。いつも通り弓で包囲するから」とエルフの弓隊長。 「でも時代はいつも通りじゃないんだ。北からオーク、南からはヒューマンが迫りつつある。新しい彼らに古いエルフが対応しうるのか、見極めがいると思う」とエルサイス将軍。 「つまりぃ、先鋒を決めるのにいつまでもかかってるわけ。なんか悪い冗談みたい。不吉だよ」サーラは反射的にロリエーンをにらんだ。と、ロリエーンはさっと片手を上げた。サーラの美しい顔は険しくなる。 「あんた、さっき何を言ったのか」「ロリちゃんまだ物覚え悪くなってないもん!」 |
|