「つまり、キルギル地方ですか」「矢継ぎ早の便だったのね」「フェリオンめ、張りきってるな」 「だからぼくは北へ先制したいとは思っていない。まだまだ様子見したい」エルサイスはダムドたちに答える。ダムドは眉をひそめた。 「東のヒューマンが動かぬというのであれば、なおのこと北へ急ぐべきでしょう」「そうです。我らのランドドラゴンはヒューマンやオークの馬よりも速い」ドラゴンファイターの将軍と副官が口々に言う。ナーダは二人の近しい者の顔を交互に眺める。 「敵は木の的ではないから、腕を力一杯降りおろしてもかわすかもしれないし、盾で受けるかもしれない」エルサイスはやんわりと言う。 「しかし歴史的にみて間違いなく急ごしらえの烏合の衆です。力一杯、素早く叩けばそれだけ混乱をきたすことでしょう」ダムドは熱を込めて言う。 「相争っていたからこそ戦いの経験と怒りはエサランバルを上回るとも言える。臆病な大将で申し訳ないけど」 「怒りにまかせて短い命を散らしていく奴らと言えます。しかし深いお考えの一端に触れることができ、いくさの前に安心いたしました」頭を下げて引き下がる兄を見て、ナーダは心の中で胸をなでおろした。 ヒューマンは西回りしてエサランバルの南を目指し、オークは北に留まり後ろ支えを司る。これがエルサイスの予想だった。 「西回り!? それは願ったりだけど、どうしていきなり甘い見立てを」「ラスィ!」ダムドがたしなめる。「油断は禁物ですが、想像できないことはありません。ケフル軍は東のキルギルの土地を通過したくないかも」 「ヒューマン同士なのに? ケフルは神聖皇帝の譜代よ」弓隊長は言う。 「譜代だからさ。直系のキルギル・ゾラリア連合とは厳然たる格差がある」 「ヒューマンが互いに牽制しあっているのはおかしいことだけど、わたしも想像はできるわ。でもフェリオンが軍馬を見つけられないでいるのは暗に通行を許す、という皇帝連合のほのめかしかも」 「キルギルは助けるつもりがない、ということかもしれないよ」許婚がナーダに寄り添う。 「ケフルが疲弊してからキルギルが乗りだすということだって考えられる。大将、この件は見極める必要があるでしょう」 「うん、ダムド将軍。竜騎兵団から偵察隊を出してくれたら助かる」 (相性の悪いヒューマンとオークが一緒にいる場合。ヒューマンがオークから分離して苦手な山岳を進む場合。ヒューマンが派閥争いの街道を進むと決めた場合)指示を出してからエルサイスは再び思考に没頭した。 (これ以外のどんな勝算があって彼らは攻め寄せてくるのだろう?) |
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