モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

10.オークの会議にて



 ブルグナの凍土に耐えるために考え出された天幕は、北風の運ぶわずかな熱を蓄えるようにできている。

 今オークたちは遥か南方へ攻め寄せており、エサランバルの優しい大気の中にいた。

 先程から平民のガルーフは、慣れぬ軍服の詰め襟をしきりに開け閉めしている。

 見聞きするものといえば、自分が汗をかいて全軍からかき集めてきたオークの士官たちの姿である。彼らは価値の高そうな洞窟熊の皮張りの床机にその重そうな腰を下ろして車座に坐り、なにごとか口角泡を飛ばし長らく論じ合っている。

(いっそエルフが攻めてくれたら目が覚める)まぶたは今にも落ちそうだ。こうしたぬくい平和な時間は田舎の若き狩人には拷問であった。

 彼は動いてみることにした。「なあ、先鋒をいつまでも決めないのは、なにか悪い洒落か」車座になって何もない幕の中央にひたすら注がれていたオークたちの視線が、傍らにぼさっと立っていた一介の旗持ちにざっと移り変わった。ガルーフの心もくっと引き締まった。(悪くないな)

「そこにそうしてるそいつだよ」指を差す。疑問を抱いたと思えばすぐに吐き出すのがガルーフである。指差した先。背筋を伸ばして威勢のよいことを言ったと思えば、傍らに座ったガーグレン将軍が重たげにかぶりを振り却下される。やりとりは先程から繰り返し行われていた。「珍しくやる気じゃないか。なぜやらせん」

 指を差されたグルルフは牙を向いたかと思えば後ずさった。その姿を合図にしたかのように他のオーク士官が一斉に笑い声を挙げた。ガルーフは面食らうが、嘲笑は自分の無知に向けられたものではないとすぐ悟った。

「もしかして、格好をつけるために言い出しては断られ……わざとやってただけか!?」疑問をすぐに吐き出す性質である。グルルフの面は一瞬で青くなった、と思うと次は真っ赤に染まった。

「敵が目の前にいるのに貴族さまが足踏みごっこの儀式とは、サガとはまるで違うな。エルフが攻めてきたら俺たちはみんな死ぬしかないか」オークたちの大きな笑い声をかきわけてガルーフは言った。

「なら、詩人の歌がごとく壮麗に死んでいくにはどうしたらいいかご教授願いたい……。言ってみろ!」グルルフが指を差してきた。ガーグレンは無言で重たげな視線を投げかけてきた。

「おう、言われなくても俺がやってやる。長々悩んでいるところを見るとエルフの力試しがしたいんだろう? 俺の死にざまを見せてやるよ」

 グルルフは鼻を鳴らした。「はっ! 分かってないな。エルフの軍に貴様ひとりで何ができる」

「分かってるさ。兵隊を貸してくれ、ガーグレン。俺だって国の兄貴たちに信頼されてパーティの棟梁をやれる力はあるんだ」

「は! ただの分からず屋だな。貴様の小さな頭以下のモンスターを狩るのと、兵法を心得たずるがしこい森の弓使いとのいくさを比べるな!」

 ガルーフは鼻を鳴らした。「じゃあ誰でもいい、森を攻めろよ。どれだけ時間をかければ気が済むんだ」

「誰でも、とは誰だ」グルルフの顔は次第に笑いを帯びる。「所詮誰ひとり動かせない場違い者に、何が兵隊だ」

「じゃあグロールだ」「お前も隊長だったよな。それにブルガンディ住まいでいろんなことを知ってるだろ。やってくれよ」

 不意に声をかけられた末席の食糧官は頭を抱え込んだ。