モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

9.オークの進駐



「夢みたいなところへ来ちまったなあ」

 よく伸びた背の高い草々が繁茂して、暖かく優しい風が彼らをそよがせる。草原はさやさやと鳴り響き、青い空は活力に満ちて美しい。地上にうごめく武骨な軍隊とその先頭に旗を持つ荒くれたオークの若者の姿が不釣り合いであった。

「緑は目に入って感動に変わり、涙となって抜けてゆく、みたいなのはどうかなぁ。ジングの奴に聞いてもらいたいところだ」旗持ちのガルーフはあごを上げて、馬上のゲーリングを見た。

「詩人の言葉を詰まらせるのは一等の罪じゃぞ」オークの老神官は言う。「ちぇっ、これから完成させるんだよ。……しかし盛り上がってるねえ!」

 寒地ブルグナでは高値が付き取り引きされるような草花を踏んで実感するごとに兵士の間で歓声が起きる。「ヴォラー!!」荒涼たる北土に安定して身を咲かす種はなにか? 軍神バランは明日の天候にも試練をお与えになるのか? 沃野エサランバルに到達したオークの兵隊はそのようなことを考えてはいない。互いの肩を叩き合い、顔の真ん中に広がった鼻から涙を垂らして喜び合っている。

「ええい、我が軍は抑えが効かぬ。これでは位置と規模がまるわかりになるじゃないか」オークのガーグレン将軍は牙を軋ませた。

「軍の士気の高さはオークの美徳でありますから……」オークの若き騎士グルルフの馬が近づいてくる。

「この景色、防御の態勢は諦めるほかないでしょう」一面の草原。まばらに存在するのは葉が横に大きく広がり背の低い巨木たち。

「弱気な発言に気をつけろよ。しかし、エルフの伏兵もいないと考えるべきだな」

「こういう場所じゃ巨大モンスターのほうが恐ろしいな。いきなり突進してきて獲物を口にくわえて去っていくんだ」元狩人とかいう平民のガルーフが当然のごとく話に加わってきたので、グルルフはわざと鼻を鳴らす。「ばかめ、我が軍こそ世界を呑むひとつの大蛇のごとくなっているのが分からんか」ガーグレン将軍が軍列を差し示す。

「とにかく早く土地をわけてもらおうぜ。国の両親も住まわせたいくらいだよ」聞いてガーグレン将軍はその広い顔全体を歪めた。そこへ神官ゲーリングが聞きつけ駒を進めてくる。

「元々をたどればオークの貧者の定めに情けをかけられたがゆえのいくさにございます。交渉でエルフから土地を得るのは案外な上策やもしれませぬぞ」

「いま西へ向かっているヒューマンたちにでかい面がしたいんだろう? ここにさっさと陣地をこさえてしまえばいいんだ」言われてみれば、とグルルフも得心してガーグレンのほうを窺う。

「馬鹿ども!」とオークの大将は言う。「エルフは長命がゆえに自然を守るとか聞いたぞ。そんな独善者が土地を明け渡すものか。この緑野を目に入れてはっきりとわかった。豊かな土地さえあれば何千年も生きられて当たり前だ。情けなんぞ贅沢者たちが見下ろすただの自分勝手な趣味だ。本当に豊かな者が強いのか、貧しい者が弱いのか、今から正々堂々やりあいウルフレンド大陸全土に知らしめる好機だ!」「なるほどなあ」ガルーフはうなずき始めた。

「急ぎ指揮所を設営するぞ。後方から諸将を召集せよ。陣はあとで固める。この間ダグデルを取った際食糧官に任じた、グロールだったか、あいつも呼んでこい」

「グロールかあ」知己の名が呼ばれてガルーフは少し喜んだ。「お前への命令だよ、旗持ち。さっさとゆけ」グルルフが小声で言ってくる。

「よし、さっさと行ってくるぜ」旗を抱えてあたりを探し、馬を見つけた。

「よう、久しぶりだな、ペガサス」馬の首を叩いてやってからさっと飛び乗る。

「はいやっ!!」

(つづく)