「ウェルマーは? 彼の報告は終わってしまった?」 「あなたをさしおくはずがないでしょう。どこへ行ってきたの」髪や鎧は煤け、体ほども長い筒を抱えて会議場へ入ってきた。大将エルサイスのその姿を見ればだいたいのところは察せられたが、サーラは聞いた。 「うん。陛下に咫尺奉った。大丈夫、汚れたのはその後だから」エルサイスは笑いを見せたが、鼻の上の埃がこぼれ落ちて咳き込んだ。「悪いけどきれいにしてくれるかい」サーラは支度を始めた。「じゃあその中身は」 ダムドが咳を聞きつけて言う。「ウェルマーは遅刻でしょう。どいつもこいつもいくさを舐めているんじゃないか。死んだらどうする。……だから大将は軽々しく謝らんでください」エルサイスの下げた頭にサーラはふきんを被せてこする。 天文官のウェルマーはほどなくしてやって来た。 「まず天候の予測から……。エサランバル周辺の雲は真っ白く風はやわらか。雨雲の運ばれる様子はなく青天がこのまま続くと見ます。見通しがよいので平地のナーダ隊長には有利、雨が地を濡らすことがないので山地のダムド隊長には有利。つまり絶好のいくさ日和、です」弓隊長ナーダだけは微笑んで手を振った。エルフ一同もさんざめいて笑った。 「それと、エルサイスの依頼で東まで出向いてきたところです。アラッテ山頂に確かに生命活動が見られます。アンデッドのものかもしれませんけどね」 とりどりの色、定期的に上がる煙。「建物と炊事が?」「素直にみてヒューマンの見張り台なのだろ。あの山はキルギルのものだ」ラスィとダムドが言う。 「いいえ。アラッテはその地下の闇に対して置かれた楔だ……とするのは伝承ですが、それほどの不自然な形状はヒューマンの登頂を拒むものです」 「ぼくたちが《森人》の法を使っても難しいかな?」とシグルド。 「じっくり見ているとなんらかの飛行体が観察できました。だいぶ警戒した動きでしたけど。最初はハーピーのような種族かと思いましたが」 「ハーピーは文化なんて縁のないお下品な生き物だよ。きれいな色なんてとんでもない」地からロリエーンの言葉が聞こえた。ピンクのエルフは品なく大の字にねそべったまま青空に向かってしゃべっている。 「詳しく見たかったんですがもうしわけないです。あれ以上近づけばかえってキルギルといざこざが起きると判断しました」 「うん、ありがとう。アラッテと地上が断絶しているというなら今回は思いきって度外視してみようか」エルサイスは汚れを落として心身すっきりとしていた。 |
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