「馬鹿者っ! 納刀しひざまずけ!!」マクネイルがピルリムを怒鳴りつけた。艦の展望台に現れたのは若い 騎士とその従者、それとマクネイル大公が部屋に置いてきた従者の三人だった。 「お、お許しを!!」彼らは無事だったヒューマンの大公の姿におびえ、それぞれの《ロングソード》を床に置き シャーズたちの前で平伏した。こうべを垂れたピルリムの丸帽子がずり落ちる。 ここで頭を押えるような不審な行いをすれば水兵たちに首を落とされるかもしれなかった。(いっそ帽子の後 を追ってしまえ)マクネイルは心に悪態をついた。 「いやいや、ご両名、どうかお気を静めて。異種族の船で張り詰めてしまうのは致し方のないことですが、頼も しい若武者と思いますよ」 (自分が決断を迫られておるくせに)愛想を貼りつけて割って入るキマールの髭面をマクネイルは目に入れる。 「キ、キマール様のご温情の通り、わたくしはただマクネイル様の身を案じるばかりに、騒ぎに対し勇み足を踏 んでしまったのです。皆さま方には平に平にご容赦たまわりたく……」 「黙れ!! 弁明に余計な口を動かしおって!!」三人のヒューマンはそれぞれの頭を一段と低くした。見え ざる大きな手に抑え込まれたようだった。そしてマクネイルは自分を窮地に落とした甥を駒に使い始めた。 「そうです、この者たちを救助にお使いください。漂流者がモンスターに化けるなら喰われておしまいとなります が、シャーズの姫であったら騎士の名誉を回復する武勇伝となりましょう」 「えっ! い、いや、なりません。ピルリム卿もお国の重鎮、え、ええと、絵画をたしなまれる風流な騎士殿で はありませんか」キマールの顔面が再び狼狽の色を浮かべたのでマクネイルの心中は快哉を叫ぶ。 「目立った功績も上げられずに生半可な絵を芸術と偽っているだけの無駄飯食らいだからこういうことを起こ すのです。ヒューマンとシャーズの和を乱したのだから自分の身をもって繋げというのが親族のせめてもの願い なのです。騎士らしく散るか生きるか、どちらもさせていただけなけれけば無駄なものはわたくしがここで斬って 捨て、皆様へのお詫びと代えさせていただきたい」マクネイルは自分の腰の《ロングソード》を抜き放ってみせ る。 「ひょ、漂流者の騒ぎだったのですか。や、やります、どうかやらせてください」ピルリムの顔面は蒼白、小さな 声が絞り出される。 「い、いや、しかし」「キマール殿。即興の泥縄ですが、我々が手を結ぶにあたってのけじめとして本気で愚考 つかまつったことですよ。こうして大人が手をこまぬいていれば年端もゆかぬ子供の体力は尽きるでしょう」 「か、海難のさなかとんだ邪魔者を演じましたこと、深くお詫び申し上げます! この命をもって潔白を証明す る機会をお与えください!!」ピルリムと従者ふたりはひたすら頭を下げた。 「ここはマクネイル様のまったく言う通りになさってはいかがでしょうか。遭難者の救助は国際法の第一義であ ります……」シャーズの艦長が見解を示す。 (わしの提案を突っぱねて騒動を収めることができるかな?)マクネイルがちらと見下ろせば甲板から不安げな 視線が集まっているのは見て取れる。 (それとも先程のように我らヒューマンの謀略と思っておるか?)ヒューマンの大公は返答を一瞬だけ待った。い ま海の向こうで注目されているシャーズのおなごは何者なのかと戯れに思いを馳せる。 「う……。こちらの手練れを二名お付けしろ。救助活動、再開」(よし。よく従った)艦長と水兵たちは指揮官 の命を聞いて活きよく動き出し短艇の準備を始め、ピルリムらを案内する。マクネイルも追随した。 |
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