モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

12.青く、青い



 ノーラは両手のひらを広げた。にぎにぎするたび、腫れ上がった前腕がつられて痛む。

「いひ」ノーラは短時間で筋肉を作り上げた気になって喜ぶ。

(でも気は晴れない!)ノーラは櫂を舟底の留め金に固定し舳先に向かって少し歩いた。

 帆柱の縄をほどいて帆を広げ、水縄をきっちりと張ってやる。

「ふう」ノーラが額の汗をぬぐい終える前に帆が外洋の順風をたらふく食べ始め、彼女を乗せた舟は海の上を
走り出す。

 ノーラは作業を終えた両手を景気よく打ち鳴らし、埃を払って腰を下ろす。速度のついた小舟はよく揺れ
る。

「……」ノーラは四つん這いの大きな猫みたいになって、木組みの舟底にしつらえた自分の寝床に向かった。

(眠れないなぁ)いつもなら家の寝台よりも上等な揺りかごであったが、少女に与えられた不吉な予言が心の
大部分に貼りついているかのようだった。

(他に楽しいこと考えよ)予言は迎え撃つつもりでいたが、空は青く、海も青く、青くないブルガンディの島は白
い雲とともにノーラの背後へ去っていく。ひたすら眺めていても予言の兆候などはまるで見られず、少女の心
には不安と退屈さが同居しはじめる。

(他に他に……)「あーっと!!」ノーラは思い当たった。

「メルバの試合じゃなかったか!?」ブルガンディ闘技場の興行の日程を必死に思い起こしていく。

 金髪の頭に褐色の肌。ノーラは大本命に賭ける性格ではなかったが、ヒューマンの剣士の男が見せる無類
の強さと戻ってくる小銭は大好きだった。

「くっそぉ」ノーラは横たわったままで身体をよじった。不本意な話題がふたつ、彼女の心でぶつかって喧嘩をす
る。

 少女は面白くないので上体を起こして舟の縁辺に頬杖をつく。再び受ける地中海の風がより心地よかっ
た。そして空は青く、海も青く、青くないブルガンディの島は白い雲とともにノーラの背後へ去っていく。

 ノーラは何も考えず上体を戻した。「ぐ〜〜」


 頭巾から飛び出す猫の耳がぱたぱた動いた。ノーラは音を立てずに目を覚ます。まだ空の色はひたすら青く
て、海鳥の姿も見当たらない。

(だったらなんで激しい水音がするんだ)待っていた来るべきものが来たかと寝ながらノーラは思ったが、彼女の
得物の《シミター》は艫にある槽のところに置いている。

 武器に手が届かないので好奇心をまず満たすことにして、思い切って舟の縁辺から自分の眼まで頭を覗か
せ、海を覗いた。

(なあーんだ)健康的な肌が目に入った。鱗ではなく、亡者でもない。

 波間にかいま見えた肩や腕の太さからして子供のものだとノーラは当たりをつける。

「おーい」、と普段なら元気に声をかけてやるところだったが、「水練の授業かにゃあ……」とノーラは思った。が
らにもなく舟に身を引っ込めた自分を更にばつ悪く感じた。

「我ながら弱気になってんだにゃあ」ノーラはまた楽しいことを探そうとする。空は青く、海も青く。

「やけ食いしちゃうかなぁ」進む舟の中でノーラは艫の槽をじっと見る。召使いたちは言った通りにふた包み作っ
てくれた。楽しみにするために献立は聞いていない。