モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

3.ノーラと大工



 天高く吠える。

「にゃあああん」とブルガンディの朝日に大あくびをけしかけたノーラは、家の名折れにならぬように馬車を繰っ
ていても、身体が動いていないと退屈なことを思い知らされている。だいたい、下り坂に気をつけていても往来
はまだ少ないのだ。

 そこへ、朝にしては音を立てる場所が飛び込んでくればシャーズ族の猫の耳は俄然注目する。ノーラは暇
の向くまま馬車をそちらへ歩かせた。

(なんだ。まだ作ってんの)

 修繕される屋敷であった。ノーラの記憶にあった煤けと傷はだいぶ拭かれ補強されていて、今は方々の穴
に大工たちが器用に取り付いて塞いでいる段階のようだ。

(ちぇっ、直してやることないのに)ノーラは港へ急ぎたくなった。

「なんだ、お姫様じゃないか」「相変わらず口が悪いな」

「げっ、喋っちゃってたのか!」

 ノーラは屋根の上のドワーフたちに見つかった。


「い……いじめたから仕返しされたんだ。そんな貴族に味方してやんなくっていーよ」ノーラは言いたいことを言
うことにした。

「またその話か!」ドワーフらは天から大声を浴びせてくる。「俺たちに勝てなかったんだから、もう屁理屈たれ
んな」

「うぬぅ……」ノーラは眉を結ぶ。「だ、誰も勝てるもんか。そんな鎧を着けちゃってさ」少女は天を指差し反駁
する。

「お姫様だからって鎧をお召しになったらいけないってことはないぜ」「カスズにお姫様がいるわけないじゃん。勉
強してないね。……そんな重いもん着て戦えるわけにゃいし……」

「おかしいな? 俺たちは着られているぞ」「落ちても平気なように着込んでいるだけなんだがな」「もしかした
ら、ドワーフはシャーズより強いのかもしれないなぁ」天にます小人たちは地上のシャーズを笑いのめす。「くそ
う……」

「攻撃が当たろうが痛くないし、第一当たらんからなぁ」

 ノーラにも小人たちの言っていることは分かる。ただ重心が低いだけではない。ドワーフには岩石と親和する
力が種族として備わっていて、気配を感じ取ったり離れなくなるようなことができるらしい。(ほんとうかにゃ)ノー
ラの格闘術が通用しなかったことだけは本当だった。学年で一番の成績だったのに。


「お前たち!! 雇い主のお子さんと何を話しておる!」馬車の死角から大音声がして、ノーラまで驚かされ
た。

「あ、お珍しい」「ミクの大親方」「違うんすよ。この子は……」ドワーフらは屋根の上で平伏しようとして姿勢
が崩れ、ノーラの肝まで冷やした。

 シャーズの少女にはドワーフ個人の見分けはつけづらかったが、ミクと呼ばれたドワーフのひげは年齢の蓄積
を感じさせた。修繕にいそしんでいたドワーフ同様重武装をほどこしていたが、武器まで背中に数種取り付け
ており、ノーラは思わず彼の武勇を想像した。

 ノーラは気圧されずにシャーズらしさを心がけて、変化した状況を素早く判断して悪戯心を発生させる。「こ
いつら、皆くびにしてよ。今すっごくシャーズの名誉を傷つけた。じゃあね。あたいは暇じゃないんだ」

「おい!!」「この!!」色めき立つドワーフたちの声を天から浴びながらもノーラは馬に鞭を入れる。しかし
脚の下の車輪に違和感を覚えて止めた、止めざるを得ない。

「まあ、喧嘩しとったのは分かるから落ち着け」(ビルっていう槍か!)ノーラは身を思い切り馬車の後ろへ乗り
出した。ミクが槍の曲がった先端でひとつ車輪を押さえ、馬車を制していた。