「おい、占い師風情がこの子に近づくなよ。機嫌を損ねたらはっ倒されるぞ」「おーいっ」港の管理者は肩を 怒らせ、ノーラは憮然とした。 「知ってんの? このヒューマンのじいちゃんのこと」ノーラは聞く。ヒューマンの老人は子供に指を差されて唇を 曲げた。 「知らねぇ。忘れるはずがないぜ、こんな派手なヒューマンは」 「あはは! 今日から忘れられなくなるかもね! 占い師かぁ」ノーラは楽しげに老人に近づき、不躾に顔を 覗き込む。人差し指を自分の唇に当て考えを巡らせた。 「よし、じいちゃんに小遣いやろうね」 「おいおい、財布の紐はどうなってんだ」 「今日はじいちゃんに縁のある日みたいだからね。へっへえ」ノーラは楽しそうに笑顔になった。 「このじいちゃんは商人でも泥棒でもないだろ。おっちゃんは商売やってるから儲かってるだろ? あぁ、今日だ けは違うかにゃ」ノーラは埠頭を見渡した。港は空いていて、自分の舟を気持ちよく出せそうだと思った。 「大道芸人は儲からないんだ。育ててやんなくちゃねぇ」 「ちぇっ、同情を始めたらすぐこうだ」遠くから呼ばわる声がして、管理者とノーラは猫の耳をそばだてた。「楽に 儲かるやつがいるもんか」今日には珍しい客に向かって、管理者は尻尾を踊らせ走っていった。 「お嬢ちゃん、何様じゃ。わしゃ芸人じゃないぞ!」 「シャーズ同士で好きに喋りおって」老人は杖を振り回した。 「元気だねえ」ノーラは避けなかった。老人は杖に振り回されたみたいになった。胸に下げた水晶のどくろもふ らふらがちゃがちゃと揺れる。 「その杖で代わりに舟幽霊を叩いてやるよ。がっこの授業で課題以外のモンスターまで倒したノーラさんだ」 「ふん、腰を抜かして舟幽霊に謝るようになるんじゃ」 「はあー!? あたいがモンスターに謝る!? アンデッドは許してくれる相手じゃないだろー!?」ノーラは埠 頭に疑問だらけの大声を出した。 「まあ、ここでじいちゃんに謝ったげるよ。ここじゃ、じいちゃんみたいなヒューマンは珍しいって言ったろ? つい 面白がっちゃった」ノーラは大声を吐き出して少し冷静になった。 「じいちゃんだって、おひねりもらいたいんならさ、もうちょっと調子よく歌ったらどーなんだい」 老人はノーラの言にかぶりを振った。「あー、わしがシャーズの戯れ言に腹を立ててお嬢ちゃんにでたらめを 吐きはじめたと思うとるんか」 「予言に嘘を混ぜるなど恐れの多いことを……」 「なあに? 占い師どころか予言者さまだっての? んな、突拍子もないこと言われたってさあ。この島町はい くさと縁がないぶん、悪知恵で攻めてくるやつが多いんだもん」 「お嬢ちゃんは陽気さと疑り深さを両方持っとるようじゃなぁ」 「生粋のシャーズっ子だよぉ。あたいに一体どうしてほしいの。埒が明かないからさ、探ってやる」 「それなら言う。なんもせんでいい」 「はあん!?」ノーラはまた大声になった。 老人は歩き始めた。ノーラはあわてて後を追う。 「よっこいしょ」不吉な予言をいう老人は杖を引き、埠頭の石畳に直接腰を下ろした。ノーラも隣にかけて、ふ たりは地中海の水面の上に四本の脚をぶら下げる。 「わしが例えばおうちに帰れと言ったら帰るかね」 「そりゃ、帰んないけどさ……。あたいにゃ使命があるからね!」 「ほう」 「……気にならにゃいの?」 「聞かんよ。震えあがりに行かなきゃならんとは気の毒じゃと思うだけじゃから」 「わしがここにいてもいなくても、お嬢ちゃんは海に出て怖い目に遭うと決まっとるんじゃよ」 「なんだよぉ、怪談話? じゃあ、じいちゃんはなんのためにここまで杖ついて来たのさ」 「わしは今回ふたつのことを視た。かわいい子の窮地と、魚河岸を行く馬車を駆るかわいい子をな。視たこと は必ず起きるのはついこないだ、ヒューマンの港のほうでも体験した」 「ほんとかねぇ」 「その時もこのわしの意志は加味されておった。予言は天つ七神のくだされものという説があるが、なればそこ へ意味や使命を見出してもよかろう? わしゃ幻を見ているんじゃない、見たいから見とるんじゃ」 「ふうん」ノーラは立ち上がって腰を叩き埃払いをした。 「あたいそんな話全然信じないよ。あたいは使命をやりたいからやるんだ」 「そうかそうか」 |
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