(さあて。魚河岸に馬車を停めといたら誰かが取りに来てくれる)もうたっぷり予定は遅れているはずだ。 「……」しかしノーラは埠頭の石畳へ再び腰を下ろした。 (考えにゃ……考えにゃならん) 「にゃんにゃんだよ、舟幽霊って!!」思わずノーラは港に鳴き声を上げたが、それを耳に入れる作業員の姿 はなかった。 ノーラはふとかゆみを覚えて水兵の頭巾から飛び出している前髪を梳く。 (ちきしょー、啖呵を切ったんだ、引き返してなるもんかい)まず老人の話を噛み砕いてみる。予言された運 命は不動であり、知った者がどう動いても訪れてくるということらしい。 少女は顔をしかめた。ノーラは今しがたのハーピー騒動で理解させられている。 (くっそぉ、このノーラさんが海で遊び呆けて一巻の終わりとは)シャーズの子は足をぶらぶらさせながら無限に 広がる大洋の向こうを見通そうとした。目指す西のかたは例年通り晴れ渡って、雲ひとつちらつかせていな い。 「いよっ」ノーラは天地をひっくり返した。埠頭の端っこぎりぎりで逆立ち。そのまま両手を使って歩く。家の誰に 見せても血相を変えるだろう。 (しかしじいちゃんはあたいが死ぬと言ったわけじゃない) 顔から汗がしたたり落ちて、陽に焼けた石畳を濡らしていくのでノーラはとんぼを切って天地を戻して直立し た。 (あたいなら死ぬまで戦うはずなんだけどな。なんなんだ、謝るって……) アンデッドが許してくれるわけがない。ノーラは先程の持論を再び持ち出した。(あたいが授業でやっつけた 奴らならなおさらだ) しかしその訓練で鍛え上げたのはノーラの自負するところである。 (あたいが単にびびってごめんなさいするわけがないんだよ。ひょっとして謝ったら許してくれる奴なのか? でも なぁ……) 「ええい、あたいは一体なにをしたんだ! いや、これからなにをするんだ!?」ノーラは《ここにいない自分》に 呼びかけ吠えた。「どーしよ……」 「おねーさん!」 「よそ様の船もいないし、待機せずに出てもいいだろ!? 小型船、乗員一名、船主ノーラ、よろしくぅ!」 少女はシャーズの女性作業員を見つけ、「あいよっ」と返事をもらった。 「やったね。管理人の親分にもよろしく! いってきまーす」ノーラは桟橋を蹴ってから頭巾をはずして、ほんの わずかずつ離れだした港に向けてぱたぱた振った。 ノーラは自分の舟に座り込む。 「これが一番面倒なんだ」 ノーラは外洋の風を求めて手漕ぎで向かう。 |
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