モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

11.赤と赤



 詐称も裏切も対抗も逃亡もやらずに、その赤さにただ吸い寄せられた。

 あの女は空中に留まるとわずか見えたが、降りてきた。その光景に見えない岩棚を少女は見るが理解は追いつかない。こめかみの辺りが押さえつけられるような気持ちがする。

 地底に降り立とうとして、女は姿勢を崩した。しなやかな腕。黒い手袋を動かして、彼女の視界に寄りかかったらしい一房の前髪を払いのける。少女メアリはその女の髪を強く印象に残すことになった。

 髪の下には美しいが不快感を隠さない表情があった。女の黒い靴を濡らした地底の汚れと、目の前で動かずにいる少女への印象を示していた。

「なあ、あんた、うちのこと知らんか……」ガイデンハイムをこれまで生き抜いてきた経験のすべてを一瞬で絶した存在にメアリは言葉をかけた。

「うちの、うちのおかんなんやろ?」「はあ!?」自分の頬が赤く染まるのを、血流が溜まるのをメアリははっきり感じ取った。相対する二人の髪に負けぬくらい赤いのかもしれないと想像した。

「この髪に服、そっくりやもん」メアリは暗闇の中、自分の後ろ髪と黒い振り袖をたぐってみせる。

 女の反応は、「ば、馬鹿にして!! ……子供なんて!!」赤い髪と黒い服の女は片手を腰のあたりに回す。メアリの頬は薄氷が張ったようになった。

(あかん……)次の瞬間に武器が振るわれる。少女の経験が強い警告を発してくる。

 しかし女が一瞬両眼を固くつぶった。それが最後だった。

「ふざけるな!!」女の怒声が地底にこだました。

「なんや!?」メアリは慄いたが、女の姿が目の前からいなくなったことにもっと驚かされた。

「ふざけとらん……ふざけとらんわ……」気がついたら自分の口から出ていたか細い声を邪魔するものはなく洞窟を通り抜けていった。周囲の安全を確認して少女は手拭きを取り出し顔をぬぐった。自分の手は蒼白になっていて、力が入りづらいと思った。


「うおわ!!」戻ってきたメアリはゴランを見つけた。地面に伏している大男に駆け寄る。彼の顔面は今度は汚水をよけていたので一応の安堵をする。

「……どうなってるんだ?」意識も保たれていた。「お前と……やつが怒鳴りあっていたな。心配で寝ていられなかった……」

「まあ……うちにかかればこんなもんや」メアリの腕の中でゴランの頭は再び重くなった。

「おい! しっかりせえ! 何度も何度もたすけたったのに!! ほんまに《ポーション》はないんか!?」答えは返らない。

「くそ! なんもない!!」赤い髪を振ってメアリは暗い周囲を確かめた。(うちの荷物はまだとおい……)手腕の中の生命の猶予が短いのは少女にも分かる。

(あるわ。いちばんちかくにある)メアリは長く太い後ろ髪の中に絡めて秘蔵してある《ダガー》を取り出す。次に服の固い襟を開いて生地の裏の隠しから小瓶を出した。

(ほんま、もったいない)瓶の中身の固い塊に一刀入れて手早く殻をむいた。他のことは考えられない。

「ほれ!」男の顔を仰向けにして、口に刻んだ殻の中身をほうり込む。「よし」

 ゴランは即座に反応した。大きく咳き込んだがメアリの手に口をふさがれもっと苦しんだ。

「いったぁ!!」メアリの手は大きな手に強く握られた。

「辛いぞ!?」「あたりまえや、《ケルの実》なんやから」

 しばらく後、苦しみに捕らえられて現世に留まることを余儀なくされた男は地底に座り込むまでに回復した。彼は大きく息をつき、

「ここの水で口をすすぎたいくらいだが、アンジェリカに救われたようだ」「そうか、おばはん、アンジェリカいうたのか」