モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

2.徒事



「ひゃ! ダ、ダイノバットじゃないね、大丈夫、大丈夫」こうもりは宙を不自然に動く黒い紙のようだった。アンジェリカは肝を冷やす。

『なんだ、公園は初めてか。おのぼりのずべ公』

「な、なんだよ!」女はゴランの言葉に反駁するも、『あ、ああ。あんたはここ住まいなんだ。立派だもんね。はは』二人は即興で役割を決めた。アンジェリカは男と繋いでいた手を組み替えて腕を絡める。

『少し休憩するぞ』ゴランは手頃な長椅子を指す。

(なに? 先方はもう来てる時間でしょ)アンジェリカは小さい声で鋭くたしなめたが、男は女を自分の隣に座らせる。

(ああ。背後の坂の上さ)目に入ることを心の隅で恐れていた赤い髪。ガイデンハイムの闇に浮かぶそれはもうゴランの心に入り込んでいた。その女の隣には目立たぬ色の男の影。

『手を回してもいーい?』『ああ』冒険者は薬売りに抱きついて彼の首に手を回した。

(いるいる。どうすんの?)坂の上に吹き矢は届かない。

(奴らの背後に回るさ)

(気をつけないとね。あたしらより楽しそうに動いてる。向かって左に登ろうか。右は生け垣で行き止まりになりそうだ)

『よし。……? おい、なんで駆け出す!」ゴランは思わずアンジェリカの背に声を出す。

「なに!?」アンジェリカが横から声を出して怪しんだ。

「いや、いつの間に戻った」

『夜中に迷惑でしょ? あたしの前にお酒をひっかけたの?』女は顔を寄せ男の口を嗅ぐ真似をした。(奴らには気づかれてないみたい)

「すまん」夜風が吹いた。それは周囲のごみを立ち上がらせ、昼の繁華を思い出させる。ごみ拾いで利益を得ようとした少女。

(見間違いか。神経が高ぶっている)

 二人は立ち再び歩く。坂には歩きやすい石畳が幾重にもしつらえられている。赤い髪の女とその相手に目をくれないでいるとその他の恋人たちが視界によく入る。夜中にごみを目当てにする者や時おり衛兵ともすれ違う。


「ここらでいいだろう」「少し上に来れたのはいいね」二人は豪奢な赤髪と目立たぬ頭巾が夜半に絡むのをやや見下ろしている。

(しかし下を通すことはできなくなった)ゴランは長椅子の下のことを言う。

 アンジェリカはうなずく。先客は二人とも座している。整然と植えられた生け垣の隙間からでは首から下は見えづらい。

(さてしばらく見物だ)ゴランはアンジェリカを草むらに寝かせ自らも横に並び、二人は腹這いで目標に頭を向ける形となった。

『こうもりが多いんだねぇ』『もう一匹いただけだろ。気にするんじゃない』反射的に中空を見上げた女をたしなめて男は目標から視線をそらさない。

(決まった時間に決まった女と会う。ご執心だねえ)(どうでも良い。隙だらけでいる以外はな)

 と、咳払いがして二人は寝たまま振り返る。

 衛兵は去ってゆき薬売りはやにわに冒険者へのしかかる。

「ちょっと!!」『こんな場所で他人にご執心と思われるのは心外だな』

「普通そういう行為も咎めるはずなんだけど」アンジェリカは衛兵が闇に消えた方向を見やる。

「普通じゃないんだろ。奴らのことを考えたら、ここは事情のあるお方がそういうことをする場なんだと思うぜ、俺もここの金持ちさまだからな』

「はぁ……済まないね」

「こっちこそ悪いね。あんたはいい身体だ」

「あんたに言ったんじゃないよ! 最低だね」