「ガイデンハイムの兵隊に、ゾール信徒、そしてあの魔女だ……」 「それくらいの人数ならおわれる日もあるわ」 「魔女にも仲間がいるぜ……。口論をしていたから複雑な関係らしい」 「おっさん、どれだけやらかしとんねん」メアリは頭痛に耐えかねる仕草をした。「あほ」 「あまり謝りたくないな。阿呆に触る者も阿呆になるんだ。いろいろ盗めて気分が良かったか?」メアリは唸っ た。ゴランは立てないまま荒い息を発している。 「いつも追われてると言ったな。そしてゾールの神官に会いに行くのに俺をつきあわせて、魔女を俺のために追 っ払ってくれた。全部お前の意志でやれただけいいと思え。運命に身を任せたらただ流れて落ちて死ぬだけに なる……」ゴランの肩が痛む。 「ほんま、だいじょうぶか。なにいうとんねん……」 「先が見えても何も得をしていない……。悪いな、痛さと不味さで耐えられん。のべつ幕なしに喋らないと正 気が保てん。いや、おかしなことを言ってるかもしれない」 「さよか……。なら、うちも注文つけてええか。苦しくてもすぐうごいてもらわんとあかんで。あの、……魔女かて 泣かしてひかせただけなんやから。こんどはその仲間がやってきそうなもんや」 言われてゴランは一気に立ち上がった。しかし少女の前で膝が笑って彼は舌打ちする。メアリが支えるため に脇の下に入ってきた。 「やめとけよ、ちび。文字通り共倒れになるぜ。……せっかくの美人がそんな顔するな」 「これはいよいよあかんわ」メアリは後じさりで大男から離れた。「うちがお使いにいったるわ。宿にまた秘蔵の 《ポーション》があるんやろ? うち、用のある家はいちどでおぼえられるんやで」 「ない」「こないだ、というより昨日か……もうおとといか。げろスライムの件でお前が踏み割ってしまっただろ。あ れが最後さ……」 「それ、うちがわるいんとちゃうやろ! いや、どないすんねん!!」 「なんとかしてくれるところはある……」早朝の鐘が鳴った。「俺も行く。お前に縁のないところだからな……」 「見つけたで! それとこれや。はよういこうや」メアリが乗り合い馬車と杖を見つけてきた。 「ずいぶん気が効くようになったな……」「おっさんには回状がまわっとるやろし、めだってほしくないんや」 「もっと目立つかもしれんがな……」 「ほんま、むちゃくちゃやけど死にそうやからしゃあない。おっさんに死なれたらほんまにともだおれや」メアリは憮 然としながら窓の枠に肘をかけた。早朝の馬車の中に二人のみ。 「お前の荷物はそれだけでいいのか」メアリは小さな風呂敷包みを背にしっかりとくくりつけているので席に斜め に座っている。 「いっしゅんで持ってこれたやろ? ふだんからもしもの時のこと、かんがえとくもんや」 「なにがはいってるかまではおしえへんで」 「何も言ってないぞ」 外に山の手の景色が流れる。 「お前なら心が躍りそうなもんだが」「せやで」「元気がないな」「ふん、しっかりせえよ」 しばらくして、「こうやって乗っかってつくのを待っとるだけというのは、たしかに気分がよくないもんやな」 |
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