ゴランは、ゾール教いにしえの高僧の故事を思い浮かべている。死者の復活。そして次に考えたのはゾール と光の子の相克であった。 「いいえ、あいつをしっかりと消していかないとね!」(投げ矢なのか!?)蘇った標的に手を引かれながら、敵 の女は言う。涙の跡が乾かぬ頬は笑みに満ちた。 赤い髪の女が片手に引き上げたのは長い矢であった。(素手で投げられるものじゃない)ゴランは常識の回 答しか生まない己がうとましい。 ゴランは敵へと走るほかなかった。再度未知と絶望へ向かう以外の進路は閉ざされている。 「おい! 何をしているか!!」 ガイデンハイムの衛兵は夜更けにあたりを怒鳴りつけた。「武器を下ろせ!!」 「邪魔」女は矢を振り下ろす。衛兵は素早く対応して槍を持ち直した。 衛兵が飛んでくる矢ともみ合いになったようにゴランには見えた。そして形にならぬ声が上がった。液体の混 ぜられた声。 ゴランは現れて倒れた兵の側に目をやってしまう。矢は衛兵の兜の喉の隙間を貫いていた。 (無造作に投げていたのに!)女が目標をちらと見たことしか分からない。ゴランは自分の足が止まっているこ とに慄然とした。 女の腕が引かれた。彼女は恋人へ舌打ちし赤い髪が揺れる。「痛いわね。あんたが見られたのが悪いん でしょうよ。頭巾はどうしたの? かぶっていたじゃない!」 それから女は灰色の瞳を恋人やゴランとは違う側に振り向ける。 「王城に跋扈する怪力乱神、見つけたり!!」 「坊主ども」女はうめくが素早く判断をくだし、なんと崖下に飛ぶのだった。 「くっ」そしてゴランは死体たちとともに取り残された。迫り来るは昼間見たゾール教徒たちである。 彼らも判断を決めたようだ。「やはり都に仇なす朝敵であった。せめて我らの礎になれ」やはりかとゴランも思 った。 先頭に立つ神官マンモンが下がっていく。ゴランが夜に見定めれば後方に僧たちの弓が一斉に引かれてい た。 ブルガンディからの旅人は決断を下す立場になかった。ただ女たちを追うだけだった。手段は残されていな い。跳べば身体は足場をなくして崖から降っていく。矢の雨が彼を追った。 (早く地面に降りてくれ!!)夜空をつんざく矢音の群れが耳に入れられる。 走る勢いで彼は肩から落ちていた。脚を折れば標的の追跡が叶わぬことになる。しかしこのまま失敗すれ ば命を落とすだろう。選べる道は他になかった。 |
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