女と男はああだこうだとがなり合う。 会話の意味するところはゴランには全く分からなかったが、このまるで魔法使いのような連中にもできないことがいくつかあるのは肌で感じた。彼の肩は痛む。 仲間の成したことを思ってみる。 ゴランは引き揚げたい。ガイデンハイムの宿、ブルガンディの根城。 あとはそこに帰るだけだ。そう思うことで肩の痛みは軽くなったか重くなったのか? 彼は正確に分からなくなっていた。ゴランは再び敵よりも平静になるよう自分に念じた。 「いた! 見つけた! あいつ、こんなところまで!!」全身が総毛立った。手傷は五感を自覚するより衰えさせていた。 「やめないか! 何者か分からない! 手の内を見せるな!」(モン……ドールだったか?)女をたしなめる叫びが夜空にこだまする。空の色は灰に曇っているのか、それとも白みかけているのだろうか。 「だからやるのよ! 骨も残さなければいいんだわ!!」ゴランは膨れ上がる痛みに構わず走り出した。 女の嘲笑か咆哮か、大きな一声が上がった。と走るゴランの耳に届いた瞬間、背が打ちのめされた。 次に襲ってきたのは非常なる熱さだった。彼の外套が何かに掴まれ揉まれているかのような感触。 反射的に振り向くと視界はただ朱に染まっていた。 ゴランは火だるまになった。 今度ははっきりと魔女の哄笑がこの崖下にこだました。 暗殺者の残りわずかな命はもがき苦しむことしか許されなかった。ヒューマンの神ゾールの地底よりの誘い。伝承が彼の心を覆ってゆく。 「んん!? ……なるほどね」暗殺者は彼女が焼き尽くす前に消えた。ディオシェリルは一瞬間戸惑ったが、行方は分かった。公園の下のごみ溜め。 「もういいだろう!」落ち着けと詰め寄るモンドールをディオシェリルは強く睨む。「ごみにまみれたって、殺してやる」赤い髪の魔女は地底へ降りてゆく。 |
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