「止めないんかい」 「年端もいかない餓鬼にもすがりたいんだよ。疲れてたまらん」 「なにするか聞くきにもならんのか」 「とても思いつかん」 赤い髪のメアリは両手を腰に当てゴランに居丈高になってみせる。男は腫れ上がる肩に手を当てることもできずうずくまった。 「なさけないとおもわんの」 「毎日思ってる」 「おもっとるだけやろ。まあ、ずっとおもっとったらええ」 メアリはその場を離れた。 (なんやだれもおらんわ)しばらく歩いた。夕べの雨が地底に注いでおりこの都のごみと混ざって少女の周囲に汚れた水を作っていたが、これはメアリの味方であった。 (なんにもきこえへん)行けども自分の足が水溜まりを叩く音しかなく、少女は拍子抜けしている。 (したらうち、逃げだしたらええんちゃうか?)抜け穴のような新しい結論が見つかった。 (しかし、いきなりとびつくのはなぁ)妙な動きをすれば余計なものを呼び込むものだ。衛兵も、ここにいるという正体不明の女も。 (おっさんをああまでやり込めるんやからなあ)メアリが考えてみれば彼も余計で正体不明なものだったが、逃げぬ理由を重傷の男のためとしてやった。 (いったいどないしてああなったか聞いてなかったわ) つ、とメアリは足を止めた。 (ようかんがえたらどないな女かも聞いとらんわ!) (だいたいうちかてどうするかも決めとらんのや! もうわらえてくるわ。どないすんねんほんま!) メアリはまさに天を仰いだ。そして全身がしびれるように感じてその場へ凍りつく。 暗い空から人がやって来る。それを目にした身体全体の毛穴が開く不快感が充満していった。 空のものは非常な高みから落下してくるのではなかった。まるで見えない階段を使っているかのようだった。 少女は見上げていても黒い服の裾から伸びる白い足首しかわからない。生業としてメアリは良い眼をもっていたが理解が追いつかなかった。 (とうぜんや……)その、黒い影のような女の身体がふと動きを止めたのは目を奪われたままの少女をことを見つけたからだ。 空中の女は少女に首を向けたようだった。その赤い髪がちらりと動いてメアリにも見えたから。 メアリは自分のごく短い生涯のことを思った。 |
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