モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

1.一矢



「ふぅーむ、不評だね」

 ロリエーンは一番最初に小馬を降りた。どさっと叢に着地する。エサランバル軍のエルサイス将軍らも馬から降り始めた。ピンクの突撃兵のロリエーンは手持ちの皮袋の中身を探って、煎った豆菓子を取り出しては口に放り込み始める。


「女までも痩せぎすの幽鬼のような腹か、ヒューマンは。いや、エルフか」「アンデッドがお天道様の下に顔を出してくるのか、南は。いや、エルフだよな」ブルグナ軍のガーグレン将軍や旗持ちのガルーフは怪しみ恐れた。遠い北国から歩いてきたオークはいよいよ未知の敵に相対することとなった。


 一騎、叢にぽつねんと佇むナーダも馬を下りる時が来た。「わっ」その瞬間を注視し今か今かと想像していたオークの軍はさざめく。

「ふふ!」草の上にちんまりと座って見物するロリエーンは笑い、ぱりんと歯で新しい豆菓子を潰した。


 エサランバルのナーダは静かに素早く背中の得物を取り出した。

「落ち着け! あんなもの、引けるはずがない」(引けないものは持ってこないだろ……。しかし、引けたらことだぞ)遠眼鏡を覗くガーグレンと目を必死にすがめるガルーフはそれぞれの感想を抱いた。ナーダの武器は大弓であった。そして見るからに太く作られており、矢に威力と飛距離を与えるであろうことは誰にも想像がついた。「亡者の細腕で引けるものか」オークの将軍はせめて兵の動揺を抑えたかった。こちらから応射しても届かないのである。

 矢は当然のように飛んだ。エルフの女は力を込める姿も見せなかった。オークたちが恐怖を覚える前に矢は一点に突き刺さった。

 オークの悲鳴は遅れて上がる。「な、なんだ、将軍を狙うと思っていたが」ガルーフは心のうちに胸をなでおろした。エルフの視力は大陸一であるとは、さっきの「先鋒争い」の会議で眠たい頭にしつこく入ってきたことだった。

 矢はオークの陣地ぎりぎりを狙ったものと見え、地面に堂々突き立っていたが、ガルーフの立つ位置からはだいぶずれていた。遠くへ飛ばした分不正確なのかと思っていると、矢の前に愕然と立つ男がいて、ガーグレン将軍である。

「大丈夫か!」ガルーフは思わず身をかがめながら駆け寄った。「に、逃げたほうがよさそうだ。森に入るなってことだよなぁ……」(エルフ女め、頭に綺麗な花を挿しているくせに)

「うるさい! 出陣だ、先鋒出ろ! 敵は一騎だ、開戦にあたってバラン様に贄を差し上げろ!」ガーグレンは軍神に火をかけられたみたいに怒鳴り狂った。(オークの大将、こっそりと逃げたくせに)