「命中率は問わない! 再度乱射せよ!」モルガンは隊長の命に応えるべくまた多量の矢を放ったが、 (立ち上がってみろ、オーク)母なるエサランバルの平原を豊かに彩る背の高い緑はエルフの視力をも覆い隠した。心地のよい風が吹き渡り草々をそよがせばそれはオークの影に見え、その度エルフの兵たちの心をざわめかせる。 相手なき斉射は繰り返される。弓隊長の駒も帰還しつつある。彼女は味方の矢を大きくよけて見せるように馬を走らせていて、その旋回とともに首をゆるやかにめぐらせて部下たちの矢のさまを観察していた。 その鋭い無言の姿は副隊長のモルガンに強い印象を残した。 「むう、誰もたどり着けんのか」遠眼鏡を覗いて、オークの陣中のガーグレン将軍が鼻を鳴らす。 傍らの旗持ちのガルーフはうつむいて地面を眺めた。オークの兵によって草が取り去られた無残な地肌があった。 同胞が命を掛けた戦いにしてはあまりに軽い結果が彼の頭を重くさせた。 「なんという長射程か。さらなる策を講じるか、それとも攻勢をかけるか」傍らの大将は言う。 (うう)グロールは全身の痛みに耐えていた。 あわてて投地したからで、北方の極寒に耐えるオークの肌も南の鋭い草いきれには弱かったようである。 (ちゃんとした鎧も支給してもらったらよかった)思うものの、すでに背中にある大盾に暑苦しい鎧を合わせていたら、ウルフレンド一の腕力を誇るオーク族でも文字通り再び起き上がれなくなるだろう。 頬がひりひりするので、グロールは痛みをぬぐおうとした。「あがっ」オークの顔がさらに腫れあがるような全体的な痛みがグロールを苛んだ。 思わず涙がにじんだけれど手に赤いものが付かなかったのはグロールを少し安堵させた。 隊長の自分は声をあげてしまったが、部下はどうだろう。先程から地面をめがけてしつこく放たれていたエルフたちの鋭い木の雨はやんできている。言い含めた通りに部下たちが黙っていてくれているのは緑に塗った背中の大盾のおかげとみて良いだろうか。ときおり背中や腰を予想以上に強く叩いてくるエルフの矢は死の使いのようであったが厚く重い盾を突き通ることはなかった。 残り、ブルグナの勇士たちがやるべきことは匍匐でもって進んでいきエルフの陣にたどり着くことだが、敵の妖精たちはなにを考えているだろう? ヒューマンからもたらされた情報の通りに排他的で、警戒心が強く、自らの長命や草木を大切にしていればよし。さもなくてやはり国土の緑ごとブルグナのオークを馬蹄にかけてくるだろうか? 「草分けの音が続いている」エサランバルのエルサイスは到着したナーダに命じて射撃を停止させていた。 「もう、シグちゃんの予想通り」突撃兵のロリエーンは満面の笑みである。 「そ、そうでもないけど」シグールドが言いよどむとロリエーンは笑顔で背中をはたく。 「じゃあがんばってきてね!」ロリエーンはシグールドの両手を取った。「やればできる! もう半分できたんだから!」 「お手柄を立てたらロリちゃんもちゅーしてあげなくはないかもよ!」「き……期待しないよ」シグールドは笑った。ロリエーンの小さな手は柔らかくて熱い。 「あんたは何かできるんでしょうね」参謀のサーラが腕を組んで言う。「できるよ。シグちゃんほどじゃないけど考えてる。危なくなったら絶対に助けてあげるからね。サーラは兵をちゃんと用意してあんの?」ロリエーンはシグールドの顔しか見ていない。 シグールドは汗をかきかき、ロリエーンに手を離してもらうと歩き始めた。 「よし! 歩兵隊出陣!」 |
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