「シグちゃん隊を救いたてまつる! 全力でロリちゃんについてこい、はいよー!」 子馬よりさらに小さな身体を運んでもらい、ロリエーンはエサランバルの緑のうえをゆく。人も馬も軽いのだからそれだけ速いとは本人が普段から任じているところである。 風の流れの中をしばらくゆけば、エルフの眼には戦場はすぐそこだ。同胞が続々とオークから逃れてくる。 「おーい、おーい」ロリエーンは屈託なく手を振る。これで味方は安心するか、歩を速めるだろう。敵には見えも聞こえもせず、それは幸か不幸かまだわからない。 「援護射撃!」小さな足で鐙をしっかり踏まえ、ロリエーンは子馬から腰を浮かせる。試し撃ちみたいに軽く射った。 ロリエーンの左右から矢の雨が飛び出す。(よしよし)突撃兵は手に入れた部下の技量を振り返らずに見た。 ロリエーンは馬を走らせつつ大空を眺めた。さらに多量の矢の軌跡が宙を飛ぶ。(よおーし)高揚した気分で弓隊長のナーダを素直に褒める。 突撃隊長シグールドの退却する姿は未だ目に入らないので、ロリエーンは彼の責任感を思った。(早く助けたげないと) (ふうん?)ロリエーンは首をかしげることになった。逃げるエルフに対し、追うオークの速度が明らかに鈍い。 未知の土地の未知の援軍を恐れるのは当然かと思い、「それはそれで。はいやっ!」とロリエーンは行軍を速めておくのだった。 「おっ。おっおっおっ」ロリエーンは胸を躍らせた。感慨があるだけで意味のないつぶやきは風に散って人馬のうしろに消えてゆく。 頼りなくて愛しい金髪が殿軍の中に動き回っていた。振り返ってオークに刃をふりかざし、その場からもう一度振り返って部下を逃がしてはまたオークに向き……。前へ後ろへ奔走し、隙をうかがっては自分も逃げる。 「シグちゃああああん!!」ロリエーンは自分の腕も取れよとばかり振り回した。かと思うと矢をつがえて一射。予期せぬ方向からの声と矢を食ったオークがひとり倒れて、場のブルグナ兵に恐怖がまき散らされた。 シグールドたちがこちらを見つけて一気に駆け寄ってくるので馬上のロリエーンの心は弾んだ。 そこでロリエーンは手綱を繰って大きく迂回したのである。シグールドたち撤兵を左に置いて、ロリエーンの馬は右へ。追撃するブルグナの兵を中央に据える形となった。 中央に向かって矢の大河が飛ぶ。ロリエーン隊と、本陣のナーダ隊の攻撃である。 「まずい!! 防御体勢、して!」どこからかオークの叫びがした。距離の割によく聞こえる。不自然な緑色が次々つき立つ。(オークの大盾かぁ)ロリエーンは舌を打ったが、オークの行軍がさらに遅くなったのは良いと思った。 「なぜなの」エサランバル本陣のサーラは、ロリエーンの駒がオークに立ちはだからなかった意味を見いだそうと努力していた。ナーダの射撃の邪魔をして問いただすことはできない。 ロリエーンはすでにシグールドと入れ違いになって戦場を駆けている。(矢の雨をオークに立ちはだからせて自分の盾にした?)サーラは意志の強そうな眉をひそめる。 ロリエーンの姿はエルフの眼にもだいぶ小さくなっていたが、戦うそぶりを見せていないのはわかった。ただひたすらに戦場を駆けている。 (びっくりさせちゃったかな、シグちゃん)シグールド隊はロリエーンと矢の大河に近寄ることもできず、左へ流れて落ちのびるであろう。自分の部下が助けやすいだろう、とロリエーンは思う。 「いくぞー!」ロリエーンはひたすら前を目指す。 |
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