「オークのはらから、進めや進め! 後に続けよ、勇者の後へ!」 (うちの大将、腹をゆすって叫んでだいぶご機嫌だ。俺ももちろんご機嫌だ)ガルーフはブルグナの旗を振りに振り、オークの戦士たちを次々出撃させていった。 人と馬に地響きを立てさせだいぶ送り出していったけれど、ガルーフ自身は進めないでいた。(大将、こんな時まで慎重でいらっしゃってやがるのか?)ガーグレン将軍の方を見た。未だに馬も牽かせていない。不意にオークの大将もこちらを向いた。その目つきに怒りが灯ろうとする前に旗手のガルーフは仕事に戻った。 しかし最前線のグロールの身が案じられるのは止められない。とそこにひづめの音が近づいてくる。 「各人、伏兵に注意しろ! 我が隊は軍の耳目となって支えるぞ」 「よう! 早くグロールを助けに行ってくれよ」ガルーフは飛び出す。手勢を率いて出ていくオークの騎士に走って追いついた。 「早くしろと言うなら引き止めるんじゃない」グルルフは顔をしかめて平民を出迎えた。 「悪い悪い。しかしおまえさん、きょろきょろしてばかりで進んでないじゃないか」ガルーフはえっほえっほと並んで走る。 「勝ちどきが蔓延した時こそ危ないんだ。堤に水が満杯になるみたいにな。兵法を知れ」グルルフはなれなれしい歩兵を置き去りにしたいが馬に鞭をくれられないでいる。 「言ってることはわからなくもないけどな、それこそ周りを見ろよ」 見渡す限りなだらかなエサランバルの草原である。緑葉を嵩のような天頂にのみ湛える低木がまばらに目に入る。 「エルフは子供みたいな風体のやつが多いと話を聞いたけど、どうだい。さっきの弓の女もえらく細かったな。あんなに目立つ木々をつたって来なけりゃならないわけだ」 「た、確かに子供だって隠れられるとは思えないが」あれは、あれは、あの木はとガルーフは指さしていく。 「そこに木なんかあるか」「都のやつらは目が悪いとも聞いたが本当だな。そうだ、見張りは俺がするよ。狩人の目でな」ガルーフは瞼を指で伸ばして騎士をあざけった。 グルルフは舌と鼻を大きく鳴らして前進した。「待て!!」 当然グルルフは苦々しい顔で振り返る。「いや、冗談じゃないんだ。あの樹に桃色の小さいやつがいたんだ!」グルルフは黙って手を振って部下とともに駆け去った。 「おい!!」本気を出した騎兵隊のことは諦めるしかなくてガルーフは素早く振り返った。桃色のエルフのようなやつもいなくなっていた。(どこに隠れた。それとも裏をかいてとどまってるのか) その派手な敵は探すこともなく見つかった。しかしガルーフは再び驚かされた。エルフ、小さな女に見えるエルフはオークの陣の内から現れると一心不乱に門を目指し駆けている。 「敵だそ! 危ない!!」ガルーフは叫ぶしかなかった。門のところにはふんぞりかえったオークの総大将がいるのだ。 ふってわいた緊急の事態に陣中は色めき立った。将軍のもとに集まるもの、駆け散るもの、衝突するもの。 そこへ小姓が将軍に馬を届けにやって来た。馬で逃げるガーグレンの姿をガルーフは想像し願う。 「お覚悟、オークの将軍、お命ちょーだい!!」そして馬のいななき。 (何……)ガルーフは失望で顔をしかめた。馬が小姓を振り払って逃げ去った。また新しい混乱。小さなエルフの歌うような叫びが忌々しかった。 怒涛の空気の中、ガーグレンが重たげな剣を抜いてどっしりとした構えに入った。(さすがにエルフひとりに負けるはずは……)ガルーフの心は晴れない。 |
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