少年のようなあの声。やりやすい相手というべきか、それとも? 「エサランバルの草木の上に! 眠らせよう、土へ還らせよう!」 わざとらしい歌詞が望んでいるのは、土に這いつくばって巨大ウォームの歩き方をしている我らオークを立ち上がらせることだ。 どうもこちらの盾の策に気づいて、馬で踏み抜く危険を恐れて歩兵を用いることにしたようだけれど。 徒歩にしては早く迫る歌声がオーク隊長グロールの心を苛んだ。そもそも歌は明らかな囮で、エルフの刃はすでに脇腹や背中に迫っているかもしれないと彼は案じた。 周囲の叢に豚の耳を澄ますが妙な葉擦れの音は入ってこなかった。ひたすら指示を待ち続け隊長以上にひもじい思いをしているだろう部下たちの切ない鼻息も聞こえない。 「はあっ」とグロールは口で溜め息をついた。故郷の自分の子たちの顔を連想しても勇気は出なかったけれど、あれこれ考えてもやることは一つ。 「ヴォラー!! 全員抜刀! 盾を恃みにエルフとやりあっておくんなまし!」 「ヴォラー!」「ヴォラー!」「ヴォラー!」グロールに続いてオークの戦士たちがエサランバルの大地に立ち上がる。 「来たなぁ!!!」エルフのシグールドは歌より大きな、自分が驚くほどの大音声を上げた。 「オークは重く大きい盾を持ってる! あれを狙ってオークを引き倒すんだ!」 「複数人、固まって!」グロールは元よりエルフに劣るオークの素早さを切り捨て、防御力で攻撃することにしていた。 「あっ!?」シグールドはオーク兵との斬り合いの末に足技を打ち込んで体勢を崩すことに成功していた。そこへ唐突に別の兵の盾が視界を覆った。不自然で作為的な緑の色。 「痛!」盾の一撃を受けてシグールドは飛ぶ。また別のオーク兵がただちにとどめを狙い、勝敗は決する。 「返り討ち!? 短弓を持ってる、気をつけて!」グロールは注意を飛ばし、宙返りしながら矢を正確に放つエルフの手腕に舌を巻く。 「しまった」自分が弓を見せたせいでオークが互いの距離を詰め始めたとシグールドは感じた。盾をもって固まるオークたちの姿がエサランバルに立てられた小さな無数の砦に見えてくる。 「全員ぼくに続け」口頭で指示するわけにはいかないので、シグールドは攻め入る見本をやってみせることにした。 「ん?」エルフの姿が一斉に消えてグロールはぞっとした。脛が冷えるような気分。 想像通りシグールドは身を屈め叢の中を走っていた。オークの兵の一人が悲鳴を上げ盾の一角が崩れる。それはグロールにブルガンディ海岸の鮫を思い起こさせた。オーク兵の後方に飛び込んできたエルフの隊長らしき少年を討たせようとするが、エルフ兵は雪崩を打って後に続いてきた。 |
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