モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

10.敗北



 奇襲をかけた自分が驚かされた。ロリエーンにしてみれば、自分が跳んだのにそいつもすぐさま空中へやって来た。開戦前の偵察でしっかり心に留めたオークの指揮官。彼めがけて放ったエルフの矢をオークの旗はものともせずはね返した。

「ひゃ!!」自分のほうへ飛んでくるエルフの矢の強靭さをロリエーンは恐れたが、恐るべきことはこの一瞬で山ほど生まれている。

「ぎゃ!!」ロリエーンの身体を包むほどの旗。それを軽々投げ上げるとは、オークの腕力はどれほどなのだろう。がばっ、と音もまたエルフの耳を包み込んだ。

「痛ぁ!!」視界は完全に塞がれて、腰に伝わる衝撃が、一気に地面へ連れていかれたことを示した。そのままひとしきり転がされて、腰の剣の鞘が何度か地面につっかえた。

「わたたたた!」ロリエーンはからみつく旗のために手足を必死に暴れさせた。いま格好にこだわっていれば洒落にならない結果が待っている。

「ようし!」近くで男の声が響いた。先ほど大音声をもって旗を投げつけてきたオークの従者の声だ。名前はわからない。偵察した時はこいつばかり喋っていた。

 なぜかそいつは悲鳴を上げた。「ああ、畜生! 誰かそいつを捕まえるか刺し殺してくれ! ああ!」さすがにこんな物を投げたら腕の筋が使い物にならなくなるでしょうよ、とロリエーンは思った。旗の重みはロリエーンの心を焦らす。

 オークの不揃いな軍靴の音がし始めた。旗持ちの叫びに周囲が反応したようだ。

 ロリエーンは立ち上がれないながらも一回きれいな蹴りを放つことに成功した。エサランバルの青空と空気が再びエルフの目に入ってきた。猪口才な若いオークの姿も。ロリエーンはすでに狙いを定めている。

 エルフの矢は旗持ちの靴を射ぬいた。エサランバルにオークの悲鳴が響く。周囲の者どもも思わず足を止める。(ちっ)大道芸じゃこの程度とロリエーンは思った。

 しかし射られたオークが倒れて泣きわめきもせず、腕が使えぬなら肩でぶつかると言わんばかりに闘志を燃やしてくるのは予想外。旗を蹴りあげて射て、隙を作った際に抜け出したロリエーンは一も二もなく逃げた。

「うわあ!」背後で忌々しい旗持ちの声がした。(転んだか!)ロリエーン渾身の矢は分厚い軍靴を壊しただけだったらしい。

 エルフの耳がつがえられる矢の音を察知し始めた。遥か背後で発生するそれらの音の正面にならぬようにロリエーンはじぐざぐに走り続ける。「射ろ! 射ろ!」これはオークの指揮官の声だ。さっきから口笛を鳴らしているが、小馬はまだやって来ない。

(びびってないで、早く来てー!!)ロリエーンは恐怖に青ざめる。


 シグールド隊の撤退はロリエーン隊の助力を得て成功しつつある。

「オークの足は鈍い、みんな頑張れ!」オークの大きな盾と未知なる土地への畏れがこちらに有利になってる、とシグールドは思う。

 思ったところ、シグールドの身体は跳ねあげられる。(さっきの敵!)あと一歩というところでつまずいた痛みは若きエルフの心に食い込んだ。自分の油断と敵の執念、二つが入り交じって多大な恐怖が生まれた。

 シグールドは地面に叩きつけられ草むらに沈んだ。かわりに太陽の下へ姿を表したのは容貌魁偉なオーク。彼は気を失ったシグールドに剣の狙いを定めた。