「いっそオークの大将に当ててしまえば良かったんだ」 「一層怒りを呼ぶだけでしょうよ。できるとは思っていなかったけどね、オークの武勇に対して武勇でもって帰ってもらうなんて」突撃兵のロリエーンは言い、参謀のサーラは受けた。 「もう怒ってるじゃんか」ロリエーンは目をこらした。こちらに帰ってくるナーダの駒をオークの小隊が追ってくる。緑の海のようなエサランバルの草原に幾条もの航跡が生まれている。少し高いところから眺められたら美しい景色があるかもしれない、とロリエーンは思った。 「隊長の指示通り! オークへの命中率は問わない! 無事に隊長を帰還させろ!」弓隊副隊長のモルガンの立派な鼻は大声を出す度に動いた。「乱射、てっ!!」モルガンは腕を振る。 一斉にエサランバルの射手は動いた。弦を引きしぼる音が響き合う。「いい音」突撃兵は長い両耳に手を当て心地よく楽しんだ。 矢はロリエーンの期待通りの瞬間に揃って放たれた。 「風切り音!! 来ましたよぉー! 全隊、防御体勢!! 防御、防御!」オークのグロールは全力でわめいた。とにかく足を止めることだ。もはや前方のエルフの女の駒はどうでもいい。 (あの人も聞いているかなぁ?)もう一人、先にいるのである。味方の無残な姿や声は見も聞きもしたくない。 「ううっ!」 「狩人だったな。よく見えるかな、いくさの恐ろしさが」オークのガーグレン将軍は傍らの旗持ちを眺めて笑った。 「あんな、見える黒い雨が」ガルーフは旗を振るのを忘れて立っている。 「そうだ、あれだけの死が降ってきたのだ」エルフの矢はとうの昔に目標に当たっている。 「やめろ……戦ってる奴らに変な口を利くな」 ガーグレンは隣の平民の不埒な態度を黙って笑った。 ナーダは味方の矢の雨の下をくぐりながら振り返り、想像と違うものを見る。 (矢が踊っている) ぱちん、ぱちんと音をさせ叢からはじける矢たち。オーク兵の姿は見えない。 ナーダは馬をさらに急がせた。 「モルガン! 地面を狙わせて!」 |
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