「よし。勝てるとは思えねえが助太刀はする。将軍、旗を持っててくれ」旗持ちのガルーフはガーグレン将軍の顔の肉を大いに顰めさせた。 グロール隊長が振り向いてつかつか寄ってくる。「いい加減お黙りなさいな。将軍に代わってあっしが斬り捨てたげましょう」「わかったよ、わかった」ハンドアックスを喉へ突きつけられては、さしものガルーフも将軍に差し出したブルグナの旗を引っ込める。おとなしいグロールがこれでは隣りの大将の怒りは火になって吹き出してもおかしくないと思った。 「んもー、しつこいんだから」「だってなあ、心配と責任ってやつが……わっ!」 ガルーフは一人の影に突き飛ばされ平衡を失った。もう気にも留めなくなった大旗の重みが甦り襲ってきて、地面へ連れていかれそうになった。その旗を素早く持ちかえて迫る地面を突く。泥が跳ねて軍靴を汚した。「なにしやがる!」 「気分が悪いなら見物しなさったら。ときどき旗を振って応援してくれたらいいです。さあ」グロールが手を伸ばしてきたが、(この俺が片膝をつかされるとは)と思った。 そして今度は耳をつんざく音に気を取られた。彼方を見れば、「あいつも頑張ってるなあ」と感想が漏れる。詩人のジングが出陣の角笛を吹いている。オークにしては薄い腹が精一杯の呼気を吹き出して、それを角笛は響き渡る唸りに変換し草原に轟かせる。合わせて巻き起こるオークたちの熱気。「ヴォラー!!」 歓声の中でひとりガルーフは旗を杖に起き上がって、「なあ、もしかしてさっきの奴が」とグロールに問おうとしたが、彼もまた影のあとを急いで追いかけていくところである。 「うむぅ。頑張れよぉ!!」旗手はブルグナの垂旗をかざし、エサランバルの温風に負けじと振るのだった。 (む。エルフのお尻が逃げていく)オークの軍の前に一人やってきて陣に警告の矢を放ったエルフの女。馬上で前傾し全力疾走の構えである。グロールの率いる歩兵隊はぐんぐんと引き離される。 「馬は見ないで! エルフたちは必ず矢をぶっかけてきます、その時を意識して! 全力で走らなくてもよろしいから!」走る最中に怒鳴るのは苦しいが、無言のひんやりとした緊張に包まれるよりはましである。 「ちょっと! いいのに! 前に出すぎ!」さっきからどうしても一人だけは抑えがきかない。グロールはしばらく叫び続けたが、耳ざといエルフの兵隊に不協和音を聞かせる気がしてやめた。(まったく、ガルーフさん並みだ!) エルフ軍のロリエーンは豆菓子をもう一口いこうとしてやめた。顔の横に長く伸びた耳をぴくぴくさせる。 「来た来た、ナーダがオークを連れてやって来た!!」 |
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