モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

9.空と地



 ガルーフもとにかく加勢に走るが、邪魔をするものがいる。

 重さを操るこつを掴み、いつしか空気のごとく振り回せるようになったブルグナの旗。

(こんな時にかぎって)ガルーフの腕にからんで足を止めさせた。

(俺は汗をかいてるのか)ほどくことはたやすいが、目を離した間に対決は終わるだろう。

 奇襲にも臆さぬガーグレン将軍の姿はガルーフの気分を少し浮上させた。いつか、野営地で自分のことをのしてくれて旗持ちに仕立てあげられたことは忌々しかったが、今この時はなぜか良き思い出のようだ。ガーグレンはむしろ前のめりにエルフへ向かう。手には魁偉獰猛な《グレートソード》。

 しかし、エルフの少女もひるまないのだ。剣を手にオークの将軍との衝突を望んでいる。自分がこのウルフレンドで一番強くて万能だと明るく思い込んでいる幼児のような、現実を知らぬ恐ろしさのようにガルーフには思えた。見ている方だけが恐ろしくなる。

(奇をてらったところで!)無意味なのだ。オークの歴戦の勇士が強力な武器でためらいなく子供のようなエルフの首をはねて終わり。将軍は《グレートソード》を全力で振るい終えた。大剣の重みに身をまかせることで太く長い腕はさらに伸びる。

 調子のはずれた悲鳴をあげたのはガーグレン。エサランバルの空気しか斬ることのできなかった《グレートソード》は主人をあらぬ方向へ連れてゆく。「ああ、」と取り巻くオークたちの慨嘆がばらばらに漏れた。将軍の大得物の巻き添えになるわけにいかず加勢できない。

 ガルーフは加勢できぬぶん見極めようとしていた。獰猛なモンスターとさしの勝負に陥った時、突進と見せかけ急に退くのは彼もよく使う手だった。しかし死すべき者までがやすやす引っかかる手ではない。

 エルフの女は不自然な方向へ急速に戻った。普通なら飛びすさったと言うべきだが、誰かに引き戻されたかのような印象さえある。

 そして女が跳んだ先、そこに倒れている者がいた。(馬丁をやっていた小姓じゃないのか……?)エルフ女が妙な声を出して、馬に驚かれた際に転倒したらしい。

 起き上がろうとした彼のもとへエルフ女が澄ました顔で着地し、悲鳴をあげさせて、当然のように跳ねあがる。オーク兵らは大声で慌てふためく。

 まったく信じがたいことだが、森の魔女の術のようなものがあるらしい。

 エルフは空高く舞い上がって宙返り。桃色の外套を巻き込む。

「お覚悟! しょーぐん!!」すると弓矢が構えられている。

 対するガーグレン将軍は未だ前後不覚。膝をつこうが踏みとどまろうが、空中からの攻撃に脳天や背中をまるごと晒していることにかわりない。

 地上において弓を使える者は少なからずいて、ようやく我を取り戻して一斉にエルフを狙う。

「よせ! 味方に当たる!!」エルフを撃ち落とせば矢も降ってくる。ガルーフは惨事の回避を選んだ。

 短い時間の中でエルフがこちらを見た気がする。表情が変わったかも。

 エルフは矢を放ち、ガルーフは振り回す。