「なんなの。今日はもう遅いよ。朝早くから売り歩いたらいいじゃない。小金持ち、ううん中金持ちくらいになれる」いやというほど味見することだってできる。苦闘を耐えたメナンドーサのおなかは鳴った。 「そうだよ。私たちまで大金持ちになられたら困るんだ、やつらは」 メナンドーサは一瞬黙った。「何言ってんのかな。どうせ、これ以上肉をもらっても売りさばけないじゃない。だめになっちゃうよ」 「お前、ちょっとは頭を使うようにしな。やつらの氷室を借りりゃいい。断られたら村のどこかの蔵でもいい。それでもだめならレオスリックの塩に漬け込む。質のいい塩を使っても、蔵や馬車を借りても、山を降りて売り歩いたらお釣りがどっさりなんだ」 メナンドーサはあきれた。「だったらお姉が話をしに行けば良かったのに! いない人間の悪口はよせとも言ったくせにさ!」 やや勇み足を踏んだイフィーヌは自分の紫の髪に手をやった。 「ん、まあ、お姉みたいな人が強く言えないのはドローネのせいだ。赤ちゃんのくせによく足を引っ張ってくれるよ」メナンドーサは末妹の無邪気な笑顔を思い浮かべた。 イフィーヌは自制しており、メナンドーサを殴るために踏み出すことはなかった。「お前のせいだよ。ドローネのせいじゃない」 「うっそだあ!」メナンドーサは、ドローネが引き取られて大喜びした自分の姿を思い出している。「だ、だって、赤ちゃんの世話をしてたらクエストなんてできない」 「相手に付け入りつつ、自分たちの面子を保つ。そういうことを考えるのが大好きなやつは多いんだよ」 「あいつ、山羊の乳を飲まされてるんだ。でも馬鹿だから満足してるんだ。ああうらやましい」 「赤ん坊に対してくだらないことを言ってる、お前の程度が低いよ」 「牛の乳だって飲んでるはずだよ。あーあ」メナンドーサは地下への扉を見つめた。その向こうは空だ。 それから言いたくなさそうに、「おしめの時だってわざとひっかけて喜んでるんだ。馬鹿でなければ悪魔だよ、あいつ」 イフィーヌも顔をしかめた。「食事の前に汚い話をするんじゃないよ。そうだ、風呂に入ろうか。さっきは火を焚いてたっぷり汗をかいたからね」 「あー……。じゃああたしが沸かしてあげる! さっきの戦いで迷惑かけたからね」 「ふうん」イフィーヌはメナンドーサのことをじっと眺めた。妹メナンドーサの動きがしばらく止まった。 「じゃっ」メナンドーサは走って台所から消えた。 イフィーヌは椅子を見つけてしばらく腰を下ろしていたが、キルギルの山中のごとく再び妹に待ちぼうけを食わされたと思って風呂桶まで向かった。 「やっぱりワンちゃんの一撃を食っていたのかい?」 「お風呂って聞いて、しみるかな?と思ったらどんどん痛くなってきて……」メナンドーサは這いつくばっていた。「薬とって」 「まったく。背中に一発だけかい? 血はこぼれていないけど、腫れがだいぶひどいよ。塗り薬を使ってやるから朝まで寝てな」 「眠り薬じゃあないでしょ! 気絶するだけ!」 「腫れてるところに塗り込むんだから痛くて当たり前だろ。早くやらないと永遠に目が覚めなくなるよ」 「お肉、ぜんぶ食べないでよ」 「朝になったら汁物を作ってやるよ。病人に優しいやつだ」 「かぶり付きがよかったのにな」 |
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