モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

3.イフィーヌの弓



「いた、いた、いた! お姉!!」

 この殺風景の中に生きた人影を見落とすなど、余計な心配であった。キルギルの山地は巨大な魔獣と異人の少女の対決に静まり返っていた。そこへやって来たのはたった一人。

 髪は紫の豊かな巻き毛に軽装のいでたちで、ところどころに暗色の鋼の装備をかませている。背丈はメナンドーサよりは高いと見える、やはり褐色の肌の女の子だった。

「登るんだよ」イフィーヌはひとこと言った。

「無理、無理、無理! なに言ってんのさ!」姉に見下されたまま、妹のメナンドーサは騒ぎ立てた。イフィーヌは切り立った崖の上に眉ひとつ動かさないでいる。北から吹きつける風のなか、堂々たるものだ。

「なに言ってんのさ。餌の役のくせに適当に逃げすぎだよ」イフィーヌは背に手を伸ばす。子供には不釣り合いな長弓だ。

「ぎゃっ!!」姉に真っ直ぐ狙いをつけられて、メナンドーサは両手で自分の頭を必死にかばった。イフィーヌの矢は特に躊躇なく放たれた。

 手前に矢の当たる音がしたのでメナンドーサは目を開けることができた。先ほどは取り出された大弓の迫力に縮み上がってしまったのだが、それにしては威力が低いと感じた。

 鏃が地に刺されば尾は上を向かされる。矢の尾はそのまま天に延びていた。

 大きな矢に太めの縄が結わえつけられており、ぴんと真っ直ぐ上がって崖の上のイフィーヌの足元へ続いている。

「登ってくるんだ。ワンちゃんとじゃれる気がないならね」

「どっ、どこ」メナンドーサとて敵の足音には気を付けている。

「あんたが騒ぐから、やっこさん隠れ放題さ」


 そこで黒い塊が崖の底を襲う。イフィーヌの舌打ちさえも遅れた。(機を見るに敏か)妹へ助け船を出してやったのを獣は理解したのだろうか。

 メナンドーサは姉の声に振り返って警戒したところだったので、情けない長い悲鳴を上げながらも、両手のキリジを構えることができた。及び腰ながらモンスターに相対して天から垂れた恵みの糸まで退がるつもりらしい。

 ブラック・ハウンドは頭を低くした。自分を傷つけた刃の輝きをよく覚えている。

「いいから走るんだ、メナンドーサ!」崖の上からでも褐色の戦士の肩の震えは見て取れる。まともに戦えるものか。

 大声を出したが、あんなでかぶつの棲んでいるところだ。崖も丈夫にできているだろうと思った。魔物はこちらを睨みつけた。いいことだ。

 すかさず妹も言うことを聞いて、自分の足元へすっ飛んできた。上手く登ってこれるか?