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2.剣戟



(先に痛い思いをさせたんだから)メナンドーサは躍りかかった。痛みを与えれば与えるほど有利になる。

 ブラック・ハウンドは頭を低くして少女を迎えるつもりだ。額には角、口には牙。

 メナンドーサは顔に笑みをちょっとだけ湛えた。彼女が事前に宣言したとおりだった。二刀流でちょうど良かった。そして右腕をふりかぶる。

 ブラック・ハウンドは吠えた。目の前の小さな敵に怒りを示し、そして口を開いて飛びかかる。

 獣は幾本も武装を生やした自分の頭部に絶対の自信があるようだった。この奇襲にメナンドーサは素直に驚きを見せてしまっていたが、左腕を突き出すのは忘れなかった。そちらのキリジの方が長いのだ。右の刀は縦に、左の刀は横に。

 しかし幼いメナンドーサの作戦は敗れた。痛烈な打撃は背中のほうから来て、勇ましい女の子は土をなめさせられた。左手の刃を盾に使うどころではなかった。

 標的はもう一体いたと考えは沸き起こり、全身の痛みのなかメナンドーサは震え上がったが、目前にいたはずの猟犬の姿はない。

 這いつくばる少女は半分だけ安堵しながら両手をひねり、キリジを見えぬ背中へ向けて直立させた。まだ起き上がれはしない。不恰好でも背中を守らなくては。その短い時間のうちに彼女はどれほど魔獣の牙が突き立てられる自身の姿を想像したことか。

 それからメナンドーサは必死になって膝を泥まみれにして立ち上がることに成功した。悪魔の猟犬が姿を隠しつつ自分を叩くことができたのは、あの黒い尾を上手に使ったのだろうか、と再考する余裕ができた。背中がひりひりと痛んでいるのだ。

 今のメナンドーサは風をくって逃げ出すことに専念しており、脳裏はむしろ手隙となっていた。

 魔獣ともう一つ。メナンドーサの怖いものは二つに増えていた。いつの間にか北風が山あいを勢いよく洗い始めていたからだ。彼女は南へ向かって風から逃げる。

(まさか、見落としてないよね)キルギルの岩山はどれも似たような顔をして少女の逃げ惑う姿に冷笑を投げかけている。