モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

4.作戦



 ブラック・ハウンドは血走った眼を天上にあらわれたヒューマンから、ほうほうの体で地べたを走り続けるもう一人へと戻した。崖の上のまるで届かぬ相手に一瞬釣られてしまったことに猟犬はさらに怒りを強くした。力がみなぎれば追い続ける相手の背がどんどん小さく見えてくる。悪魔の犬の心は暗い喜びの予感に満たされてゆく。

 獲物と決められているヒューマンのメナンドーサはなにも考えがまとまらない。いまだ短い手足をひたすら振ることに専念して、天上の崖に立つ姉のイフィーヌのもとへ決死の移動を試みている。少女が生き延びて背を伸ばしていくことができるかどうか、瀬戸際である。

 姉が大きな弓矢で差し渡した綱は、天から底まで依然と力強く張られるものだったが、妹はそれをつかんで登るに四苦八苦する有り様だった。

「メナンドーサ! 刀を掴んだままで登れるもんか!」すると妹は無言で地面にしゃがんで両手のキリジをそっと置くではないか。

(振り返ってモンスターにぶつけてやるくらいしなよ!)イフィーヌは頭を抱えたくなるが、妹もおっかなびっくり、こちらへ登ってきた。弓矢と綱はエルフの祝福を受けているという触れ込みに嘘はなかったらしい。仕入れの対価の彼らの尊大なふるまいは姉妹を大いに鼻白ませたものだったが。

「早く! 早く! お願い!」自分の身体を安全な場所へ押し上げようと全身を酷使するメナンドーサは唯一自由な声を張り上げた。後ろのモンスターの巨体は、メナンドーサをあと一瞬で包むところだ。メナンドーサの両腕は自分の重さに声のない大きな悲鳴を上げている。

「ぎりぎりまで引きつけないといけないからねぇ」イフィーヌはかたわらに用意してあった大きな壺をおもむろに傾ける。

「わっ」下のメナンドーサは反射的に足を浮かせた。足元をきらきらとした流れが通ってゆく。

 崖に前足をつく形だったブラック・ハウンドはおかしな感触を受けた。きゃいん、と声が漏れた。

 この悪魔はメナンドーサを追うことができなくなった。立てない。足の裏の輝きと岩肌の輝きが害をなしているようだった。雨の日よりもひどい、異質なぬかるみだった。

 メナンドーサもまた腕の力と姉の命綱だけしか頼りにならなくなった。具足は姉の振りまいた液体でまったくおぼつかない。