モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

7.炎のあとに



「いいね。高く売れるよこれは」メナンドーサは気持ち良さそうに鼻を動かした。脂の焦げる香りは嗅ごうとするまでもないほどだったのでイフィーヌは黙っていたが、彼女も煙立ち込める崖下を覗いた。

「危ないよ?」遥か下を器用な姿勢で身体ごと覗き込んでいる姉にメナンドーサは声をかけた。炎はまだ赤く大きな姿をして眼下に踊っているのだ。熱がひたひたとイフィーヌの頬を照らす。

「ちょっと行ってくる」「なんでさ」自分の気づかいに逆らう姉に妹は呆れる。

「私ら今丸腰になっちまったじゃないか。刀はともかくエルフの弓矢を炭にしちまうのはことだ」イフィーヌは垂れ下がるエルフの綱に手をかけて振ってみた。

「……っと!」その時炎が風を呼んで大きく形を変え、降りようとしたイフィーヌをおどかした。

「ゆっくりしようよ! モンスターをやっつけた後で武器に命を懸けるなんて順番がおかしい!」メナンドーサはへそを曲げている。姉妹の得物が揃って崖下に寝っ転がっているのはほとんど自分の責任だったからだ。

 メナンドーサは姉の降りかかったところを指差す。「ほら、それ」

「エルフの綱は燃えてないもの。普通ならとっくに消し炭だよ。そうだったらお姉だって作戦が思いつかなかったでしょ」

 イフィーヌは黙って聞いたのち、「なるほど」と言った。メナンドーサは続けた。

「エルフの弓矢だって大丈夫と思うから、だから危ない火の底へ今行く必要はないし、お姉は今その綱で底のワンちゃんを打ったんでしょ。鞭みたいに」哀れなブラック・ハウンドはもはや痛みに憤怒することも永遠にない。イフィーヌは「なるほどね」と再びひとこと呟いた。なまくら刀ほんの二振りよりも命を大切にするべきか。自分たちは両親に似てまだ身体が大きくなるだろうから、また少し無理をして長めの剣を手に入れようか。まだ幼いイフィーヌは頭の中で銭勘定を始めた。

(よしよし)メナンドーサは姉を案ずるより言うことを聞かせる方に興味が移っている。

「馬を隠した場所は分かるかい。お前だけ村へ戻るんだ。一旦ね」

「は!? あたしが金持ちと話するの!?」「よく分かる。偉いね」

「そりゃあ、クエストを達成したら報告するのが冒険者だもの……」イフィーヌが黙ってうなずくので、メナンドーサの楽しさはみるみる消えてゆく。

「でも、どうしてよ」

「さっきから良い匂いがしすぎるからさ」イフィーヌは赤く染まる崖の底を指差した。