「狼か、グールか、どちらか出てきそうだね」「ああ。両方かもしれないよ」山の底はかつてのゾールの祭りのように獣の脂と炎にまみれていた。火を恐れるモンスターは多いが、(これじゃ単なる目印だ)とイフィーヌは悪魔の猟犬だったものを見下ろす。そのそばで生きているのはヒューマンの女の子たち、たった二人である。 「お土産のためにわざわざ馬を連れてきたんじゃないの」メナンドーサが金髪を揺らして、姉の顔を覗きこんできた。 「まさかあんなに手強くでかい奴だったとは思わなくてね。二人と一頭の背中じゃ足りないよ」 聞いたメナンドーサは岩肌を蹴る。キルギルの地が闇色の具足に削り取られた。「あーあ、もう一人くらいいたらよかったのに」 「……別にそんな意味じゃない。見ればわかるだろ」イフィーヌは地と天を指差す。「炎はまだまだ消えないが、空は暗くなってきた。消えるのをおとなしく待って二人で肉を切り分け始めるより、お前が村へ馬を走らせる方が速い。なによりお前が村から大勢の人手を連れて帰る方が大事だよ」 メナンドーサはしかめっ面をした。自分たちの住む村と隣人たちに思うところあったが、馬の待つところへ急ごうと決めた。 そこで妹は一度振り返ったが、「子馬は一人のほうが速いじゃないか」と姉は言った。 「ねえ、獲ったのはあたしたちだよね?」 「ああ、勝ったのは私たちだよ」 「ちぇっ」メナンドーサは急いで踵を返し馬の隠し場所へ向かう。 |
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