モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

9.イフィーヌ考える



 崖を駆けくだった妹の帰りが遅いとくれば、イフィーヌは夕闇の中で苛立つ。

 血の気の多いメナンドーサの勇姿をつい思い浮かべてしまう。妹は自分と同じく丸腰であるが、それはあの村の中で吉と出てくれるだろうか?

 そこらの適当な岩を見繕い、イフィーヌは腰を下ろした。自分の身は想像以上に重くなっていて、身体を闇に沈めたみたいに感じた。妹をここへ残す方が危険と思ってしたことだったが……。

(どうもうちの妹は他人の血まで好きみたいで)身体の中の熱い血だけ好きならいいのに。はたから見ていると母親そっくりだとイフィーヌは思う。

 イフィーヌは自分のふわふわとした紫の髪に手を当てた。(でも実際似ているのは私らしい)イフィーヌの父親はうるさいほどそう言っていた。父親の髪は美しい金色だった。メナンドーサと同じ。

 イフィーヌの心に影が差した。母親だけでなく妹にまで目が届かなくなったなどと考えたくなかったのだ。

 もっと余計なことを考えれば、自分こそ独りなのである。天の日はすっかり暮れたが、地の火は依然くすぶっている。武器を取りに降りるにはまだ早いが、イフィーヌの黒い肌は赤く照らされ続けている。

 心はせくが、今のイフィーヌには様子伺いしかできない。麓に視点を移す。

 目当ての方角とは別に、多量の灯火を認めた。動かぬ灯りなので驚くことはない。キルギルの山脈はすっかり闇に包まれて安らぎを覚えているから、その中に連なる輝きは地上の星のようだった。

(ここをいま治めているのはモルダット王子……だったかな)闇にそびえるあの塊はたぶんガイデンハイム城だろう。想像してみると目の眩むような高い位置に整然と並べられた灯火たち。

 都の王城に目を奪われたのも束の間、村の方角からの松明の群れなんて無いのは見たら分かる。イフィーヌはそこらの適当な岩を足げにした。