「この蕪もたっぷり育っているな。いや、大根とも違うな?」箸休めにするつもりはない。ガルーフは先を急いで品々を喉に通していく。腹を望むだけ満たせる信じがたい世界。彼は絡め取られてゆく。 そこへグロールが遅れて追いついて、「それエウレカです」丸く太った果実の上に鮮緑の広い葉を飾る姿、その欠片だった。「滋養が馬鹿高い奴です。狩るのに非常な苦労を要しますが」 「イリスの氷室、二つの意味で役に立ということかな?」バランの老神官が言った。 「こいつ動いていたのか? 菜っ葉の味なのに」さしものガルーフの箸もちょいと空振った。「まあいい」しかし検査の再開。 「ガルーフ様は相変わらず非常な豪胆で、私などは生涯追いつけない境地に座っておいでだ。ただ私の胃袋だけがついてゆきたくて駄々をこねる」ジングはぽつぽつ呟きはじめた。未完成な句の欠片であった。「私もヒューマンの食糧を恐れまして、かわりにオークの兵糧をいつもより努力して詰め込んだのですが。失礼なことを喋ってすみませんが、ガルーフ様の勇気を羨んでいますので」 睨みを効かせてきたのはガーグレンのほうだった。軍の付録みたいな青二才を恐縮させてから次はゲーリングに向かう。 「体の中身以上に食っているかに見えるこの恥知らずの馬鹿はどうなってる? 毒が頭に回っているんじゃあないか? 我輩には痛みや常識を無くさせる毒の知識がある」 「芸のない悪口だな。俺はずっと正気だ。腹がはち切れそうなんだよ。馬鹿面下げてヒューマンの餌を有り難がってるだけじゃあないぜ。いま死んだら何もかもぶち壊しだから耐えてやってるんだ」言いつつも、ふっかりとしたパンを手に取っては鋭い牙に始末させた。「やっぱり旨いと言っちまう。トング麦なんて比べ物にならんね。焼きたてはいいな。女の腹みたいだ」 「炊事場はもっともっといい匂いでしたから、こいつに限っては毒も飛んだことでしょうね。あっしもオークの飯をぎゅっと詰めたはずですが、まさに目の毒」グロールは自分の腹を揉んだ。 「エサランバルの小麦でしたか?」ジングは炊事場で彼に聞いた話を思い出した。「私もおいしいパンを口にしてみたくてケフルまで求めたことがあります。昔の話です」ガーグレンの顔色を伺う。「豊かなエルフはこころよく物を譲ると聞いたのですが、ヒューマンのケフルでは結局高価な代物でした」 「奴等は他人の功績で自分が強くなることばかり考える非常識な悪徳の塊さ。ヒューマンの垢と企みでできた食べ物を呑んで奴等の兄弟となった気持ちはどうだ。旨かろう、なあ」不遜な毒見役に笑顔を向けた。ガルーフはただ口を動かす。 「今ヒューマンとエルフが事をかまえつつあるとかブルガンディでも噂でした」 「ならばエルフを友に仇敵を滅ぼすのが常道というものさ。いつも独りでよく考えるガルーフ殿もそう思うだろう?」ガーグレン将軍はグロールの方からガルーフへ首を巡らせた。 「俺がどうしても目覚められなかったら仇討ちでもなんでも勝手にやっていいぜ。とりあえずこいつを飲み干すまでは待てよ」飾り気のないオークのコップに喉ごしのよさそうな濃い色の湯を注ぐ。 「わしにも分かるぞ。カール茶じゃな。貴人用に茶葉をきっちり揃えておる」ゲーリングの視線もよく注がれる。 |
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