オークたちの不揃いな食器が盛大にガルーフの前に並べ立てられても、料理の行進は終わりを告げない。 なによりも軍の機密が重要だった。人をほとんど使わせてもらえぬグロールがてんてこ舞いして膨大な食材を管理した。彼は盛んなるブルガンディの料理人であったが作業はより細やかに量を莫大にこなすものであった。 ダグデルの一角の、ヒューマンに打ち捨てられた軍人病院の食堂において彼は働きつづけた。秘密を共有するジングが見兼ねて給仕を手伝い足を疲れさせた。目標は一つベッドが置かれ派手な調度品が囲む病室。ヒューマンの軍幹部用であったろう。 「王族でさえ一生口に出来ぬ品かも知れんのだぞ。羨ましいことじゃ」ゲーリングが顔を見せてきて満面の笑みさえ湛えているのだ。 「なんだか説法の匂いがするぜ。そう思うなら食っていけよ。遠慮するな」 「怖い顔じゃ。相伴したらポーションの在庫を見られなくなる、任せておけ……と言うつもりであったが芳しくはない。これで向こうさんの意思を計るとすると……」 「食器ぐらいなかったのか」どう見ても自分の晩餐を一回に揃えるために雑兵から無理に徴発した品々であった。「そこは慎重にいかないと」グロールが現れた。頭に長い調理帽。両腕にははみ出すほどの料理皿。 「余計なものをこっちによこしたくない? 何があっても?」気取ってつけた前掛けが垂れる。グロールがゲーリングの前にかがんだ。ガルーフの側をはばかるように見えた。ガルーフ本人が強くそのように思ったのかもしれない。 しっ、とゲーリング翁が強く制した。推測が当たったらしいと見るやガルーフは喋りだした。 「いや、違う。ヒューマンがよしみを結びたがってるんだとしても城全部をただでいっぺんにくれる話は無いだろ。ガーグレンの奴が素直な動きを見せる奴じゃないのは隣りの旗持ちにしかわからないという話だって無いんだ」 小さな器たちを音なく運ぼうと心がけていたジングが傍らでうろたえたらしい。 「おまえさん、落ち着け」ゲーリングはガルーフに言う。 「ああ、落ち着いていないさ。ヒューマンの毒皿がオークの最後の食事なんだからな。恐ろしく寝心地のいい部屋が終の住処か」叫んだ。 皿を再度取りに出るところだったジングがびくりと豚耳をいっぺんに寝かせた。 |
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