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5.ザーグ



「恋愛の女神イリスの御姿です。サファイアのごとき沈着な美を湛えておられる」ジングは両腕を巨大な彫像へ精一杯伸ばした。

「ブルガンディでも人気のあった神様すね。シャーズの娘っこども、にゃんにゃとそりゃあうるさかったですよ。疎ましがるのは良くないかな? あっしも国の女房みたいに面倒くさがりになったかな」

「グロールについては勝手にしろ亭主と思うだけだが、シャーズというのは聞くほどにいい加減な種族らしいな。信仰さえ遊びの種か」ガルーフは今度はジングのほうを向いた。

「いま言って気付いたがこの女神様の信徒は守護をやめてしまったのか? ヒューマンは大切に、ではなく便利にここを使っているだけに見える。もったいないことだな」

「ほほう、ガルーフ様、初めてイリス様をご覧になったのに」

「随分しおらしいすよね」

「囃すなよ。お前たちの知識だけ入り用だと言ったろ」

「はは。我々の腕の中にしかとグラの血が分け与えられているのでしょうね。そして脳裏には対面した七人の巨神の顔が刻まれているのです」

「国決めの歌か」場違いな期待感がガルーフの胸に巻き起こった。子供の頃の楽しい夜への予感だった。詩人の演目のはじまり。

 グロールが指を真上に向けた。遥か地上を指している。

「あっ、上がコボルトのダグデル砦なんでしたっけ? じゃあ、」

 ジングがそれを引き継いだ。

「ご名答。私見ですがここはザーグと思われます。ガルーフ様、ノームの砦です」

「恋愛の神様だけに懐がお深いんでしょうね。二重の信徒をお持ちなんです」

「コボルトとノームはごく近くに住まってお互いを大切にしたのか。教えに熱心で偉い奴等だ」

「そうでもなくて……ご神体のサファイアの安置権を巡って争ったとか」

「おいおい!」

「んでも、最終的にこの地をかっさらったのはヒューマンで、コボルトとノームはそいつらの奴隷にもならなかったわけでしょ。それって悲しい仲のよさじゃ? やっぱりアンデッドの巣かなぁ、ここ」グロールは自分の言葉に一層冷えた。

「それにしては大規模な戦役の記録がなくて」ジングは語り始めたがすぐグロールのくしゃみが返答した。

「グロール殿しっかり。そういえばサファイアは永遠の冷気を発するとか。関係があるのでしょうか?」ジングも自らの腕をさすりはじめた。

「ここ、何も見えないのに怖いことばっかりなんだから」グロールは小さく泣き言をいった。

「ふぅーむ」ガルーフは床や柱たちを注視し始めている。

(壁のほうは……)あまりに広大で突き当たるとも思えなかった。

 ダグデルとザーグ。争いと友好を繰り返すような種族の住処ならお互い不公平を生まぬ作りにするだろうか? 二重の信徒。