やはり自分はオークである。緩慢な生より痛烈な死を好んでいるのだ。疲労で回らぬ頭でガルーフは己の境遇に説明をつけようとする。 太古の昔よりブルグナの隣に居座る邪悪な敵手は勇敢なるオーク軍の前に未だ姿を現さず。国の境はまったく寂しい土地である。からからに乾いて大軍を通しやすいと判断されて見通しも良すぎた。視力の良いガルーフが毎朝に勝手に目星をつけたところが夕べには宿営地に選ばれている。 日がな一日の足踏み仕事よりは、メーラの息吹に軍の名誉をかけて戦う方が少しはましに思えてきた。しかし垂旗の柱がきしきしといつもやたら不安な音を立てる。海と航海、旅を司るゴブリン族の女神の見えざる手がブルグナの聖旗をひと掻きするだけで新人旗手の命も一巻の終わり。巨大物の衝突で首がへし折れているか、傍らの無用の長物ガーグレン閣下に首を飛ばされるか。 そんな理由あって、オーク念願の戦いを風雨相手に演じる勇者のガルーフであった。戦いと名誉。ガルーフがもといた場所である雑兵たちの列。疲労に固くなってゆく脚と単調な風景に倦んでゆく脳髄に対して給金をいただく連中。彼らの視線がガルーフの頭の上の空間に他の何よりも強烈に注がれているのは間違いない。いったん意識してしまうと彼の背のオーク毛がごわごわと逆立って両腕のふさがった身につらくなる。 だがきめの細かい床に続き食の世話も変わった。学の無いガルーフには言い表わせなかったが、形式からはっきり変わったのである。しかし何をどう例えていいかは分からない。しかしこれで一日すべてにおいて退屈することが無くなったし、新しいものを食い床で休むと見違えて精がついた。慣れぬことは恐ろしいがそれは狩りと別段変わらん。不意にそう思いつきひとり失笑した。 とりとめなき思考の旅からガルーフは帰還した。周囲の軍靴の響きの消沈ぶり。 「非常に大人しく歩け」 石のようなガーグレンの声。獣を躾ける強い調子だった。ガルーフは聞き返す。 ――オークの軍隊クルアフ山地に入る |
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