家族は末子の帰還より腹の癒し手である生肉への欣喜を隠せなかった。自らへの治癒処置ののちにオークの感情をもって末の子のヴォラーをしっかりと素直に大祝福してやった。 ガルーフも勝利の勢いに乗って家族に滔々と告げたことがある。大氷壁から寒波至れる季節に向かうことであるし、と両親が応えた。弟と兄たちは人心地ついてまさに親に膝詰めていたので一気に話はまとめられた。 警護にとどまらず噂があれば遠征をも企てたのである。これからは狩人として依頼を受けたならどのような相手でもしとめて帰ると景気よく言い立てることにした。運良く犠牲を防げた場合オークの勇名は倍化し報酬も名誉に応えて気前よく集まる。 ただしまったく素人の戦いだから、身体の大きなガルーフが常に先駆けねばならない。ひたすらに虚勢を張って有利に立ち回れたら幸運程度の策で兄弟においてたった一人の生傷が突出して多い有様。獲物と化さしめたモンスターの肉料理を兄たちにたらふく食わせてもらって乱暴に傷口を塞いだ。 血気で毎日を彩る生活だったがそのぶんガルーフは着実に成長した。また兄たちも弟の乱した敵の隊列をさらに乱して回る手順を体で覚えつつあり、大陸の辺境の更に辺鄙な寒村に教官なき戦術が生まれつつあった。 ガルーフのパーティの武勇と商売に似せた食い詰め者も現れ始めたが、抜け駆け者だろうが媚びたい者であろうがガルーフは特に制止することはなかった。 彼がこだわるのは強者の犠牲を増やして弱者の犠牲を減らすこと。バランの理想の世界に近いと彼は嘯く。強者同士並んで鼻から白い息を吐き散らし吹雪に負けじとする。あばら家に所在無げに佇んで空腹の果ての運命に怯えるより突然果てるほうが面白かろう。 ごくたまに村を訪れてはごく少ない金持ちだけに目をくれて決まりきった商売をして去る商人。自尊心を満たすためにぼろい住民へ見せびらかすだけに運んでいる都の品々。 ガルーフは唐突に大股をふるって近付き商人に品を求めた。ブルグナの上等なスピア。彼の見張られたまなこを終生気持ち良く回想できると思った。 |
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