ガルーフと家族の命運が尽きる時が来た。村丸ごとのものである。一回の凶作がオークの脆弱な経済を簡単に打ち砕いて、その社会の末端にへばりつくガルーフの胃袋をぺしゃんこに叩きのめした。胃が痛むほどの苦しみのもと、やるせない真昼間を過ごすある日に親が言った。病人や子供を掠め取るモンスターの徘徊に注意せよ。 ガルーフも徘徊を決め込んだ。貴重な鉄の農具を握りこむ。力の入らぬ体にやけくそに力を押しこんだ。弱り目をさらす住民の顔を眺めて回り、特にいけないことになっている家や不用心なところを巡回しようと思った。しかし何日か過ぎただけで怠惰と空腹と日照がガルーフの心を苛んだ。張りつめる体と弱る心の均衡が崩れ路上に尻餅をついた。携えた鍬を頬杖と決めて自らの意識に休みをくれてやった。 その一瞬で全身が抱きすくめられた。 いっぺんにまどろみは失せていて、彼の巨体をねじ曲げ壊そうとする意志が四方八方から迫ってくる。ガルーフの頭は恐ろしい焦燥に燃え上がった。 (サーペント) 大蛇は獲物を絞め殺して丸呑みして持ち去っていたのだ。体全体を包み込む破壊力を受けると全てが理解できた。次は生き残る方策を絶対に入手しなければならぬ。 抱えていた鍬を第一に思い出した。それが無ければいまの思考も無い。バランの御下へ迎えられる実績さえ無い。呼吸の喉と肺と反撃する手首を守ることだ。両腕の筋肉が急激な熱。押し合いへし合い。頭脳が焦りに焼かれて心が悲鳴をあげる。兄たちにも頼られる怪力を勝ち気なオークの若者はひたすら誇りに思い、ガルーフは右手を空けることに成功した。ならば懐中の包丁を取るのも単に順番通りにすぎない。 サーペントは獲物に発声させないことを戦略としていた。巨大な胴を用いた、頭部絞めを技とし強靱な顎と牙は消化の時間まで保管しておく。家から持ち運んできた鍬のつっかい棒がガルーフの幸運なのだった。鍬の左手の守りと包丁の右手の打撃。やれると思う時とにかくやる。両足は転がされないように幾度も踏み変え敵に逆転の機会を与えない。口を大きく開けて己の牙と敵の鱗との硬さ比べさえ演じた。死闘を何度も何度も繰り返せば心が飽くほどで自分のその余裕はガルーフを大いに喜ばせた。勇者の怠惰の果てにサーペントは安楽な世界に勝手に旅立っていった。「ヴォラー」ガルーフはつぶやいた。 薄汚れた包丁で口腔の毒腺を丁寧に取り去れれば良くて、残りはバランの報奨とありがたく頂いた。大量の蛇肉と連れ立ってガルーフは凱旋する。 |
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