モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

10.決まり



「しかしだよ。あたいが名誉と責任をもってお前に連絡をよこしゃ、結果的になんも変わんないじゃないか。こい
つはあたいとお前の共有財産なんだから」ノーラが右手の実をもてあそぶ。「こいつをうっかり持ち去ったのはあ
やまる」

 シャットは眉がひどく重たいみたいにしかめた。「住所」「オレはなんにも教えてねえぞ」

「あ! あーあー、それだって調べはつくさ! ブルガンディ住まいの平民の子弟だろぉ!?」ノーラは炎天下
に汗をかいた。天険の山々に囲まれた盆地の要塞島は陽射しをよく集める。

「あっでも『シャット』なんてありふれた名じゃ難しいかぁ」シャーズの少女は言うが早いがその猫の耳をひっつか
まれる。

「あたたたた! 今のはただの感想だってば、許して! ほんとに素早いんだから……!」自分より背の低い
少年に耳を引っ張られ頭を下に固められてノーラはあえぐ。

「で、でもさ、ただ実を返してもらってどうすんだい。ブルガンディの自分ちまでちゃあんと守りきれんの」ノーラは
シャットの手の下から声を出す。

「な……なんだよ。いつもみてえに持って帰るだけさ。見ろよ、背負い袋も見つけたんだ」シャットは振り返り背
を見せた。

「ふーん。いつもみたいに安く買ってくれる商人が相手じゃないけどね。高くつかなきゃいいけど」解放された水
兵は頭巾を直しながら喋る。

「例えばだけど、ティアラのおばちゃんのことだからさ、とっても良く見える条件をちらつかせてさ、在り処を教えな
って言ってくるかもよ。ううん、言わなきゃこの島から出さないぞっておどかすほうが簡単か。でもこいつを手放し
ちゃったら縁はそれまで、今までお前が獲ってきた儲け話はおしまいさ」ノーラは左手で右手を指差す。

「う……」

「なんだい、黙っちゃって。あ、もしかして本当に突っつかれたあとか? いやいや、言わんでいいよ。あたいの
ほうはさっきも言ったけど、この実はお前との財産だ。だから取り上げることはないよ。またまた誓おうか?」

「でも、持ち逃げみたいになったろ」シャットはぼそりと言う。

「にゃあ、言うなよぉ! それはただのうっかり!」ノーラは頭をかいた。金の髪が振れて自らきらめくように少年
の目に映った。

「決めた。オレは姉ちゃんと行くぜ」

「おー、そーかい!」少年は幼い船長を笑顔にさせた。

「姉ちゃんはうぬぼれ屋で、そそっかしくて、世の中なめてるからな」「にゃんだよそれっ!」

「だからあたしと組みなってあのおばさんが言ってたのさ」「ああ……。あのおばちゃんはほんとに影で何してるか
わかりゃしないからな!」

「だからさ。大人の知恵や法にはまだ詳しくねえけど、敵いっこないのだけわかる。姉ちゃんのほうが話しやすい
って思ったのさ」

 ノーラは吹き出した。「つまりあたいのほうが与しやすいってか! 生意気だね、あたいだって同じように思って
るぞ、へっへ」

 シャットは意に介さず、「じゃあ出発しようぜ。急いでるみたいだったじゃないか」

「え!? 実際ついてくるのかい! や……やめといたほうがいいんじゃないかにゃあ」

 シャットは再び眉をしかめた。「なんだよ、怪しいな」

「いやぁ……そうそう、食料と水!」「ああ……。どうにか乗っけってってくれよ。おばさんの馬車を飛び出てきち
まったんだ」

「あっはっは! 敵対しちまったのか!」「オレの食料はいらねぇからさ。潜って貝を獲ったり、魚釣りだってでき
るぜ。水は……わりぃ」

「ふーん。あたいの船に乗ってちったあわかってきたか。海中の木の実を採れるくらいだ、そっちの腕前も見てみ
たいね」ノーラは買い物のために舟を下りた。

「悪いな」

「なに言ってんだ。お前も運ぶんだよ。でなきゃとんずらするぞ」

「おう」シャットもノーラのあとに続く。