「しかしだよ。あたいが名誉と責任をもってお前に連絡をよこしゃ、結果的になんも変わんないじゃないか。こい つはあたいとお前の共有財産なんだから」ノーラが右手の実をもてあそぶ。「こいつをうっかり持ち去ったのはあ やまる」 シャットは眉がひどく重たいみたいにしかめた。「住所」「オレはなんにも教えてねえぞ」 「あ! あーあー、それだって調べはつくさ! ブルガンディ住まいの平民の子弟だろぉ!?」ノーラは炎天下 に汗をかいた。天険の山々に囲まれた盆地の要塞島は陽射しをよく集める。 「あっでも『シャット』なんてありふれた名じゃ難しいかぁ」シャーズの少女は言うが早いがその猫の耳をひっつか まれる。 「あたたたた! 今のはただの感想だってば、許して! ほんとに素早いんだから……!」自分より背の低い 少年に耳を引っ張られ頭を下に固められてノーラはあえぐ。 「で、でもさ、ただ実を返してもらってどうすんだい。ブルガンディの自分ちまでちゃあんと守りきれんの」ノーラは シャットの手の下から声を出す。 「な……なんだよ。いつもみてえに持って帰るだけさ。見ろよ、背負い袋も見つけたんだ」シャットは振り返り背 を見せた。 「ふーん。いつもみたいに安く買ってくれる商人が相手じゃないけどね。高くつかなきゃいいけど」解放された水 兵は頭巾を直しながら喋る。 「例えばだけど、ティアラのおばちゃんのことだからさ、とっても良く見える条件をちらつかせてさ、在り処を教えな って言ってくるかもよ。ううん、言わなきゃこの島から出さないぞっておどかすほうが簡単か。でもこいつを手放し ちゃったら縁はそれまで、今までお前が獲ってきた儲け話はおしまいさ」ノーラは左手で右手を指差す。 「う……」 「なんだい、黙っちゃって。あ、もしかして本当に突っつかれたあとか? いやいや、言わんでいいよ。あたいの ほうはさっきも言ったけど、この実はお前との財産だ。だから取り上げることはないよ。またまた誓おうか?」 「でも、持ち逃げみたいになったろ」シャットはぼそりと言う。 「にゃあ、言うなよぉ! それはただのうっかり!」ノーラは頭をかいた。金の髪が振れて自らきらめくように少年 の目に映った。 「決めた。オレは姉ちゃんと行くぜ」 「おー、そーかい!」少年は幼い船長を笑顔にさせた。 「姉ちゃんはうぬぼれ屋で、そそっかしくて、世の中なめてるからな」「にゃんだよそれっ!」 「だからあたしと組みなってあのおばさんが言ってたのさ」「ああ……。あのおばちゃんはほんとに影で何してるか わかりゃしないからな!」 「だからさ。大人の知恵や法にはまだ詳しくねえけど、敵いっこないのだけわかる。姉ちゃんのほうが話しやすい って思ったのさ」 ノーラは吹き出した。「つまりあたいのほうが与しやすいってか! 生意気だね、あたいだって同じように思って るぞ、へっへ」 シャットは意に介さず、「じゃあ出発しようぜ。急いでるみたいだったじゃないか」 「え!? 実際ついてくるのかい! や……やめといたほうがいいんじゃないかにゃあ」 シャットは再び眉をしかめた。「なんだよ、怪しいな」 「いやぁ……そうそう、食料と水!」「ああ……。どうにか乗っけってってくれよ。おばさんの馬車を飛び出てきち まったんだ」 「あっはっは! 敵対しちまったのか!」「オレの食料はいらねぇからさ。潜って貝を獲ったり、魚釣りだってでき るぜ。水は……わりぃ」 「ふーん。あたいの船に乗ってちったあわかってきたか。海中の木の実を採れるくらいだ、そっちの腕前も見てみ たいね」ノーラは買い物のために舟を下りた。 「悪いな」 「なに言ってんだ。お前も運ぶんだよ。でなきゃとんずらするぞ」 「おう」シャットもノーラのあとに続く。 |
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