「だんだん透けてきたかい?」少年は少女に声をかけた。ノーラは何度も壁を振り返っている。 「そんな千里眼みたいな人間がいるもんかい。あたいが集中すればシーフのスキルだって使えるんだから」 「ずるは無しだよ。隣の部屋に足を運ばなかったらいいとでも思ってんのかい」宿の主人が鋭く叱咤する。 「だあって、こいつが余裕綽々でさ。こいつよりいいものが探し出せなかったり、ここより汚い部屋だったらなんだ か恥ずかしいよ」 「ゲームの決まりに後から文句たれるなんてしょうがない貴族様のお姉ちゃんだ、あっはっは」主人ティアラは夜 中に声を上げた。「笑わないでよぉ」 「全くだよ。オレの代わりに金持ち相手に取り引きしてくれる話だったのに、逆にこれじゃ足手まといだ。ふああ」 シャットは大きなあくびをしてシャーズの牙がきらめいた。 「む……。そうだね、そうだ。あたいがしゃんとしなきゃ威張ってる意味がなくなっちまうね」 ノーラはシャットのそばに寄って、「ゲームはおばちゃんの仲違いの策だ。気をつけないとね」 「あはは! まったく、考えすぎだよ!」ティアラの猫の耳がぱたぱた動いた。 「いいから早く話をしてくれ。オレ眠いんだ」 「でも、この子は確かに拾い物かもしれないね」シャーズの商人は深夜にたたずむ少年少女を見比べる。 「シャット君はおねむの時間だからあたいに集中してほしいな! ほうら」ノーラは懐を探ると丸い固体を取り 出す。 「んん!?」ティアラは首を突き出した。「よ……よく見せな」口からのけた煙管の火をもみ消す。ノーラの掌 中から目を離さず。 ノーラはティアラの目前から実を隠してしまった。「はい! いくらで値をつける?」ノーラは白い牙を見せ笑 う。シャットもあくびを噛み殺しながらノーラと同じようにした。 「な、なんだかわかりゃしないね。ちょっと貸しな」「やだよっ。おばちゃんの爪で傷がついたらことだ。空気が漏れ ちまう」 「やっぱり! あんたたち、なんてことしたんだ」 「ほらきた! だからここで話そうってあたい言ったんだ。周りの軍人さんに聞きとがめられたら、あたいらここの 牢屋行きだったよ。さっき父ちゃんに誓ったばかりじゃないか。決してここから盗んだもんじゃないよ」ノーラは果 実を再び取り出すと鞠で遊ぶみたいにくるくる回した。 「いや、そんな馬鹿な話があるもんかい。エリアルの実をそんな気軽な」 「へへへ! こいつが優秀な漁師なんだ。あたいは有能な仲介」それ以上はシャットがノーラの言葉を遮っ て、再びシャーズ女に向かって得得と威張って話し出すのだった。 「う……話が上手すぎやしないかい。海の中の木なんてさ。やっぱり信じられないね」ティアラの言にシャットは 眉をしかめて隣の仲介人の様子をうかがった。 「実がここに一個あることは確かなのに? じゃあいいよーだ」ノーラも眉をしかめて、「よそに持ってくよ。おばち ゃんの食いつき方を見られただけで満足さ。そういうのを読み取るのもシーフのスキルだ」少女は水中の呼吸 を可能にする稀少品を再びしまった。 「ま、待ちな、待ちな」 「だよねえ! いわくつきの値段で商人から買い上げるより、子供二人と取り引きするほうが安く済むよねぇ。 しかも身分も名誉もしっかりしてるときた」シャルンホルスト提督の第一子はにっこり笑った。 |
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