「よぅ、なに買ったんだよぉ。教えなよぉ」 「なににやにやしてやがるんだ。危ねぇだろ」シャットはノーラの荷を分かち合いながらぼやく。前を往く貴族の 少女は肩に重荷を担ぎながら首だけ回して喋るのだ。 「平民君がなけなしの銀貨をはたいたら気になってしょうがないじゃないか」 朝の要塞を忙しげに行き来する水夫たち。ノーラは彼ら軍人を器用によけて自分の舟へとシャットを引っ張 っていく。 「なんだよ。別に……塩だよ」 「なぁんだ。想像ついちゃったな。別に、塩はあたいの船にも十分あるんだけどな」 「世話になるんだからこれくらいはさ。余ったら姉ちゃんにやるから」 「おお、そうかい。航海にゃ塩はいくらあっても困らないからね」ノーラはちゃんと前を向き始めた。 「安く買えて良かったよ」 「そりゃこの島で生産してるからね。軍の副業みたいなもんさ」 「姉ちゃんはなにを買ったんだよ?」背負い袋に詰め込まれた水と別に、年若いシャーズふたりの肩を圧迫す る長い荷物。長い麻袋に入っているそれは、二人が歩を運ぶたびにごわごわ動くのが肩へ伝わってきてシャッ トを疲れさせた。 「へへへ、秘密だ!」 「あいかわらず不公平な姉ちゃんだ」 ノーラは海面に身を乗り出した。 「いよぅ、お帰り」 シャットが海から顔を出した。次いで貝を握りしめた右手。 「へぇ〜〜、百発百中になったじゃんか」ノーラはシャットの左手をつかんで舟に引き揚げてやった。 「本当に、密漁だって怒られねえだろうな」シャットは海中で消費してきた空気を必死に肺へ補充しながら訊 く。 「ならもっと先へ進んでから採るかい。適当な群島はまだまだないと思うけどね。ほら、海図を見な」 「見づらくってしょうがねえよ! なにが描いてあるのかさっぱりだ」びっしりと引かれた方位線にシャットはすでに 音を上げていた。 「ははは……。水兵だけど子供の風来坊のあたいらは当然見張られてる。お前がのんびり貝採りに精を出せ るのはお目溢しさ」 「本当かよ」 「きょろきょろすんなよ。怪しいってほんとに思われたら砲を撃たれて、あたいら海の藻屑さ」 「……。ここはいいよな。ゆうべ思った通り、霧が出るから鳥とかモンスターが近寄らないんだ」 「なるほど、だから採り放題なんだな。たぶんあたいらが採っても採りきれないから拿捕されないってわけだ。じ ゃあそろそろ魚も釣っておくれよ。貝ばっかり溜め込んだら飽きちゃう」 「十分かな。じゃ舟を進めてくれ。ここは貝のための浅瀬だから」 「了解了解」ノーラは漕ぎ出す。 |
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