「ああ、銀貨だったから頭も冷えたし、落ち着いてもっと探すぜ」シャットは次に箪笥に取りかかる。 彼の気を惹くものはまたすぐに見つかった。 「すげえ、《ナイフ》だ」固い鞘に納められた短刀。少年が抜き放つと冷ややかで美しい刀身がこぼれる。「持 ちやすいなぁ」 剣を構えようとして少年は自らのいでたちを思い出し、箪笥の中をさらに探った。大人用の衣服が少々残さ れていたが、それを掻き分け彼はベルトを見つけ出した。 「へっ、強そうだ。闘技場のビキニアーマーの女戦士みたいだよ」ノーラは水着を着たきりの少年をからかった。 「ちぇっ、メルバの試合を見逃したのを思い出しちゃった。そういえば、娘がいたな……」 「誰?」「その親子」 「なんだい、二人とも知らないの。シャット君は席を買ったことがないとして、おばちゃんは熱中してなかったか な。流れを読む勉強になるとか言っちゃってさ」 「やだね、そんなにやっちゃいないよ。言われてみたらブルガンディが懐かしいくらいだ」 「ほら、黒い肌に頭は金の髪の滅法強い男だよ。ヒューマンのさ」 「なんだ、ヒューマンの選手なんて覚えちゃいないよ。みんな丸い耳が横についてちゃ見分けがつかない」 ノーラは笑う。「うそだあ。強すぎていつもど本命なくらいのやつだよ」 「ああ、あいつか。つまんない男だね」 「あはは、強さがお金のお墨付きだってことだよ! あたいは配当や種族より実力が好きだな!」 話題のわからないシャットは《ナイフ》の吟味に熱中していた。「見せてよ」とノーラが近寄る。 「取るなよ」「お前こそ部屋を決める前に取るんじゃないよ」 「結構な業物だろ」短刀を手渡しシャットは言う。 「はっはっは、安もんだろ!」「まるで風を掴んでるように振れるんだ、相当使えるぜ。そんな闘技場で見せび らかすための派手物でないほうがオレの仕事にゃ都合がいいよ」 「は〜〜生意気なんだ。メルバだってね、慎重さがちゃんとあるから真面目に強いんだぞ」 「じゃあこいつはやっぱりいいもんだな」「んなわけないだろ」 「きっと兵隊が泊まって置いてったんだ」少年は水兵の少女の手から短刀を取り返して自分の腰に納める。 「軍人が装備品を置いてくもんか! お大切なカスズの財産だぞ!」 しばらくのち、「じゃあここに決めたぜ」 「にゃんだよ、もう決めちゃうのか。つまんないやつ!」 「もう出てこねえよ」少年の背後にはすべて開けられた調度品。 「じゃあ、隣の部屋にしなって。結局これっぽっちじゃ面白くない」少女の背後の机には銀貨、《ナイフ》、ベル ト。 「これ以上いいもんが出てくるもんか。姉ちゃんこそこいつらが欲しくて言ってんだろ」「ぜんぜん!」 「丸腰で不安だったからありがたいぜ。ダルトはお土産、親が怖くなくなったよ」 「ふーん。お姉ちゃんの部屋ととっかえてよってあとで吠え面かくなよっ」 |
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