「あんたから暴れだしたんだろう? 坊さんが腕力を振るったら、いけないな」 ゴランには組み打ちの心得があって、それを発揮している。背の低い神官の小さな肩を後ろから左手で抑えこんでいるのだった。 (!!!)ゴランの肩こそが悲痛な叫びを上げていたが、彼は何もかも抑えなければならなかった。 「ふ、ふざけるな、狼藉者」振り返ったゴブリンの神官の緑の面貌があえいで幾度か赤い口の中を見せる。 ゴランは彼の背に右手をねじ込む。 「やめろ!」神官カルモンは目的を果たしたはずの自身の口を押さえ込み、狼藉者の顔色をうかがってくる。それを見さだめたゴランは右手の力だけはずしてやった。 「なにが目的なのだ。な、なにをさせようというのだ」 「もう言ったろ。ただ単に《ポーション》を譲ってくれと。かっ」舌を動かしているとメアリに食わされた《ケルの実》の味が再三襲ってくる。ゴランの視界のすみで赤いものが動く。傍らの少女がこちらを見やっているようだ。 目の前の小さな僧が裏門から一人出てくるのを見計らって、ゴランとメアリは行動を起こした。ゴランは苦しい息の下で待っていたのだ。 「俺はあんたのことを買っているのさ。こいつの失敬な物言いは謝らせてくれ」ゴランは左手をカルモンから離してやってメアリのことを指さした。 「なんやねん! うちかて、悪気はなかったんや」赤毛の子はぷいと首を振って後ろ髪を大きく動かした。 「こいつはまだ食い下がっているが、いいほうに受け取ってくれ。口さがない言葉にさらされてるあんた。俺はあんたと直接取り引きがしたいのさ。俺は他の神官を好いていないから裏口へ来たんだ。ヒューマンの俺が言うのがおかしいかい? 奴らにさっきひどい目に遭わされてな」 「さっき?」カルモンではなくメアリが声を上げた。(さっきはさっきさ。昨日の昼と昨日の深夜)恫喝され、射殺されるところだった。 「お……おかしな物取りだ。本当におかしいのか」カルモンの声がまた上ずってきたのでゴランは右手を突き放した。「うわっ!!」カルモンとメアリは叫ぶ。 ゴランは掲げた右手の指先をひねり、アシャディ大金貨は朝日を跳ね返した。「御坊に寄進たてまつりたい」 「やりすぎや!!」メアリの大声をゴランはしめたと思う。(真実味が出る) 「う、うるさいぞ。声を立てるな。静かに、静かに」カルモンの様相がもう一度変わってゆく。 「そう、冷静に公平にものを考えられるあんたに偉くなってほしいのさ。正門から付け届けをしたところで、ええと、マンモンの懐に入るだけなのだろう?」ゴランは昨日初めて出会った神官の尊大さで話を作った。「あとダイモンや!」メアリが隣で言う。 「う、うむ、そんなのはただの悪い噂だが……」カルモンは言いかけながら視線を神聖皇帝の貨幣から離さない。 「ま……まさに数十の家畜を屠るに値する。貴様の犠牲心をこの手に受けよう。な……何本ほしいのか」なかなか大金貨を差し出さぬ信徒に向かって神官は言う。ゴブリンの手は栄達をも掴みたい。 「行李もいただけるかな。すなわち、それに入るだけ所望する」 「ごうつくすぎるやろ!!」 |
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